ソルティアさん
じいちゃんが死んでから5年間、貧しい暮らしのなかで毎日剣の腕を磨いた。いや剣なんて高価なものはこの村ではてにはいらなかった。だから代わりに木の棒を何度もふるった。手の皮が擦り剝けてもマメがつぶれて血がでても、構わずに素振りを続けた。それが強くなることだと信じて、何度も何度も何度も。
本当はすぐにでも村をでたかった。しかし、それが出来ない理由が二つあった。
「やあ、トム少年。朝からせいが出るね」
白い歯を光らながら筋肉の塊がこちらへやってくる。ソルティアさんだ。朝の五時からおれが目をそらして素振りを続けていると、ソルティアさんは隣まできて腕と足を交互に振り上げる運動を繰り返した。そのすべてがきれいに直角で、すべてがやかましかった。手を上げ下げするたびに隆々とした筋肉がうねりをあげて、汗の粒が飛び散る。この筋肉の壁を越えなくてはならない。それが最近の俺の目標だった。
じいちゃんが亡くなったあと、俺はこのソルティアさんに引き取られた。ソルティアさんは、奥さんをはやくに亡くして娘とふたりで牧場を営んでいた。娘の名前はサマといった。俺と同い年くらいで、太陽ように明るく笑う素敵な女の子だった。なぜかは分からないけど、この娘と仲良くなる前にここを出なくちゃいけないとおもった。
しかしこの村を出られない理由のひとつが、このソルティアさんだった。俺が村を抜け出そうとするたびに、何度もソルティアさんに阻まれた。仕事の隙をみて抜け出しても、夜にみんなが寝静まったころに音を立てず部屋を抜け出しても、村の出口には必ずソルティアさんがいた。正直にいってこわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます