第20話 一緒に…

(ここまできたら正直に聞いていくしかないな)


 上手く誤魔化せる自信の無かった俺は、正直に聞いてしまうことにした。


「ゴメン! 実は…前に君のスマホにメッセージが来てて…偶然見えちゃったんだ。 次に会う日を聞いてたから、気になって」と俺は正直に答えた。


 絵里子は複雑そうな表情をしたあと、ぽつりと話し始めた。


「そっか…省吾は大学の後輩だよ。 たまに悩み事を相談されるんだ。 特に最近、彼がちょっと大変な状況にいるみたいで…」と絵里子は説明した。


「そうなんだ…」


「あれれ~? もしかしてハルくん焼いてる?」


 絵里子が少しニヤニヤしながら、こちらを見てきた。


「え、いや、そんなことないよ。 ただ、心配だったんだ…」と俺は照れ隠しに笑って答えた。


「嘘だ~、ハルくん、めちゃくちゃ焼いてるでしょ?」


 絵里子はさらにからかうように、俺の肩を軽く叩いた。


「そ、そんなことないってば!」


 俺は顔を赤くしながら反論したが、絵里子は楽しそうに笑っている。


「可愛いなぁ、ハルくん。 焼きもち焼いてる姿もいいね」と言いながら、絵里子は俺の手を握り締めた。


「大丈夫だよ。 ただ後輩の相談に乗ってるだけなんだから。 それにショウ君はハルくんも面識あるよ」


 そう言われて、俺は驚いた。


(省吾…誰だったかな)


 全然思い出せない俺を見かねて、絵里子が助け舟を出す。


「まぁ、そんなに絡んでないかもね。 去年の新人歓迎会で、私と一緒に顔を合わせてたの覚えてないかな?」


 そこで、去年の新人歓迎会を思い出してみる。


「ああ! あの1年の大人しそうな子か!」


「そうそう! あの時に困ったら気軽に相談してねって言ったら、その後も時々相談の連絡が来るようになったんだ」


 なるほど、やっと俺の中で話が繋がった。

 納得すると同時に、絵里子の話で気になる部分があった。


「時々相談の連絡って…二人で会ったりするの?」


 俺は心配になって聞いてみた。


「う~ん。 基本はメッセージのやり取りとか電話かな。 直接会うことは滅多にないよ」


「そう…」


 ”滅多にない”という事は会った事があるという事だ。

 ただの後輩なんだから、あまり気にする必要も無いのかもしれない。

 でも、やっぱり気になってしまう…


「どうしたの? 心配?」


 正直に言えば、心配である。

 しかし、正直に言うとからかわれるのも確実で、なんと返答しようか迷っていると…


「大丈夫だって! おねぇさんを信用しなさい」


 絵里子は軽い調子で言ってくる。

 確かに絵里子が色々な人と関わっているのは知っているし、交友関係が広いのは今に始まった事では無い。

 俺の知らない人間関係が多い事も理解しているし、絵里子にとって色々な人に会う事自体が生き甲斐のような、俺と真逆の人間だ。

 それを否定するのは気が引ける。


 でも…


「やっぱり嫌だ」


「え?」


 絵里子が一瞬驚いた表情をした。


「絵里子が他の男と会ってるのは嫌だ!」


 これまで絵里子の人間関係には口出ししないようにしてきた。

 そんな俺が、こんなにハッキリと気持ちを伝えたのは初めてだ。


「絵里子の事は信用してるし、これからも信用したいと思ってる。 でも、前に省吾って人のメッセージに気付いてから、ずっと辛かった… 毎日気が気じゃ無かった…」


 絵里子の事と信用していないような気がして、今まで言えなかった。

 でも、もう我慢できない。


「私はハルくんが好きだよ…」


 絵里子と会ったときは、頻繁に好意を口にしてくれている。

 だからこそ信じていた。

 でも、信じきれなかったからこそ、これだけ苦しかったのだろう。


「信じたいけど…ごめん…」


「どうすれば信じてくれる?」


(信用する方法… 俺以外の男と会わないようにしてもらう? いやいや、どこの束縛男だよ。 友達と遊ぶときは同席する… いやいや、これも現実的じゃないし、キモい。 そもそもお互いに時間が合わないだろうし)


 俺自身も人間関係の広さが絵里子の凄い所だと思っている。

 コミュ障の俺からすると、絵里子みたいな事はとても真似できない。

 そしてそれを縛るような事はしたくないと思った。

 …と、そこで俺はさっきの話を思い出して、思い切った提案をしてみた。


「絵里子…一緒に住もう!」


 絵里子が驚きのあまり、言葉を失っているのか、しばらく固まっていた。

 しかし、思考が追い付いてきたのか、口が小刻みに震えている。

 そして「ええっ!?」と大声で驚きの声を上げた。


「ダメかな?」


「えっと…ダメじゃないけど…」


 絵里子は下を向きながら、そうつぶやいた。


「じゃあっ!」


「でも!…ちょっとだけ考えさせて欲しい」


「そう……うん、分かった」


「あ!えっとね!その…イヤとかじゃなくて、急な話だったからビックリしちゃって。 とりあえず一度落ち着いて考えたいだけだから!」


(よかった…)


 絵里子の言葉に少しホッとしている自分がいる。

 急な話であった事はもちろんだが、ここで完全に拒否されたら、きっと関係が終わると思っていた。

 絵里子の反応から、少なからず俺との関係を終わらせたいという気持ちは無いように見えた。


 後日、絵里子から「一緒に住みましょう。 不束者ですがよろしくお願いします」と、猫がお辞儀をしているポーズのスタンプと共にメッセージが届いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る