第17話 和平交渉

「この国の最高戦力はおじい様です。」


アリーシャは目を伏せながら悔しそうに口を開いた。






「おじい様を失ってしまってはドラゴニアは終わりなんです…」




そうか…この状態でエルフの国と和平交渉をしたところで


国王が致命傷を負ってしまえば、政治の中枢が混乱して国を運営することができない。


そして、最高戦力を失ったことが他国に伝われば、再度戦争を仕掛けられるだろう。




国王がいない状態で戦争を繰り返した先にあるのは


ドラゴニアの消滅だ…




俺は気づいた。


アリーシャの執拗なまでのリハビリへの熱意


彼女は国王の孫として、王族としてこの状況をなんとかしたかった。


そして、リハビリに出会った。




俺は先日のアリーシャの一言を思い出した。


「エルフの英雄を撃退しました!」




あの瞬間、この国の未来が開けた瞬間だったのだ。




「ナオルさんには感謝してもしきれません。」


「そして、この国の将来の代表として、ドラゴン族全ての思いを伝えさせてください。」




「ナオルさん、この国に来てくれてありがとうございます。」


彼女は泣きながら、感謝を伝えてくれた。




その涙は嘘偽りのないものだろう。


俺の大好きなリハビリが


ドラゴニアの未来を動かしてしまったのだ。




「アリーシャ、感動するのは分かるが…」




「はいっ、申し訳ありませんおじい様。」


「そして、戦況の拮抗化を元にエルフの国を和平交渉のテーブルに引きずり出すことができました。」




確かに、エルフ側も国王に勝った英雄より強いアリーシャが現れたんだ


正直、想定外だっただろうしな




「そこで、和平交渉にナオルさんも同席して欲しいんです!」




「えっ?なんで俺が?」




「第一にナオルさんの安全のためです。」




「なんで同席することが安全に繋がるんだ?」


そんな最強戦士が集まる場所に行くこと自体が危険そうなんだけど…




「エルフの国はドラゴニアの急激な戦力回復を非常に疑問視しています。


この世界ではあり得ないことが起きているのですから…」




確かに、この世界では機能が回復するって概念がない


一度怪我をしてしまえば、そのまま


二度と戦場に返り咲くことはない




しかし、最近のドラゴニアはリハビリのおかげで


負傷した戦士が次々と戦場に現れる




極めて異常事態だ。




「となると、この国になんらかの秘密があると相手は疑います。」


「その秘密を握る、もしくわ壊してしまえば…」




そうだ、俺の存在がなければ


ドラゴニアは敗戦して、エルフの国が戦争に勝利する。


俺の存在を邪魔に思って当然だ。






「そして、デイサービスを作った異世界人の存在は遅かれ早かれ気づかれます。」


「その時にこの国の最大戦力である王族が和平交渉の場に出向いてしまっていてはナオルさんを守れません。」




俺はどうやらドラゴニアの国家機密なみの重要人物になっていたんだな。




「分かりました。俺も和平交渉に出席します。」


「最後までお役に立たせてください!」




「ナオルさん…」


「ナオル殿」


2人は涙ながらに感動してくれている。


王宮も完全に感動している空気感だ。




…てか、完全に命の危機じゃねーか


最悪、エルフの英雄ばりの実力者に命を狙われるってことだろ?


それはヤバい!


確実に死んじゃうじゃん!


だったら和平交渉だろうが、激戦地だろうが付いて行くよ!




俺はこの国の未来と


自分の未来を賭けて和平交渉に同行することになった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る