第24話
――ある見習い騎士団員視点2――
閣下がいる。騎士を目指している者ならば彼の武勇伝を知らぬ者はいないほど、非常に武と知略に長けた方。今は現団長に後を任されて騎士団を引退されている。聞く所によると、ご夫婦揃って畑仕事を始めたらしい。住んでいるこの町から離れた場所にも畑を所有しているらしい。
引退されてからはのんびりしたいと滅多に騎士団に来られないのに、何故ここに?
「うむ、俺の後をしっかりとやっているみたいだな。前よりも威厳がでてきたな」
「ありがとうございます。これからも精進して参ります」
新旧騎士団長の対面。そんな場合ではないと頭では理解しているが、ふたりが揃っている姿を見られるのは胸にくる。子供の時からの憧れの存在が揃って目の前にいるのだ。
「さて。分かっているとは思うが、町の状況は現在危うい。しかし暴走魔野菜を何ヶ所かに纏められたとアントンとエルンストから聞いた。これから1匹も逃さずに殲滅に入る!」
「「はっ!」」
閣下が現役時代を思い出される威厳を持って言った。私が見習いになる前に引退をされているが、部下に命令をしている姿は何度か目にしたことがある。
有無を言わさぬ力強い声。恐れることなど何もないという安心感を与えてくれる。
「はっはっは! 団長、お前さんの言葉を奪って悪かったな。今はお前が団長だしな、指示を出せ」
「さっきまで現役時代に戻っていたのに急に辞めないで下さいよ。全く閣下は変わりなくて何よりです」
呆れたように団長が言う。暴走する閣下のことを任せられるのは団長だけだと騎士団では噂になっている。団長の仕事の要領が良いのは閣下に鍛えられたおかげであると言われていて、団長は否定をしているが間違ってはいないんじゃないかと俺たち部下は思っている。
「はあ。では、閣下の言う通りこれから殲滅するための班分けをしていこうと思う。班ごとに作戦を練ってくれ! 分かっている情報は紙にまとめてある、確認してくれ。それでは班を分けていく!」
いよいよ殲滅戦か。怪我は仕方ないが、死にたくはないな。周りの人も一気に真剣な表情になり、ピリピリとした空気になった。
「あ、ちょうっと待て」
……。いざ、戦いへと高まっていた空気が霧散した。真面目だった雰囲気が緩んでしまったのに気付いてか、閣下は気まずそうに頬をぽりぽりとかいている。
「おい爺さん、何やっているんだよ?! 今まさにやるぞ! って雰囲気だっただろうが!」
「いや、アントン。俺も分かっていたんだが……。ちょっと言い忘れたことがあってな」
「やはり、物忘れが……?」
「うるさいぞエルンスト! 俺は若くてまだ現役だと言っているだろうが!」
ゴツっ! ゴツン!
「「痛っ!!」」
「おい! 何で俺まで殴られなきゃいけねぇんだよ! 殴るならエルンストだけにしろよ!」
「うるさい! 連帯責任だ、連帯責任!」
「はあっ?!」
これが先輩から聞いていた閣下とアントン先輩たちによるじゃれあいというものか? それにしてもすごい音がしたな。
ぱんぱんっ! 団長が手を叩き言い合いを止めた。
「閣下、ふたりともその辺で。言い忘れたこととは?」
さすが長年一緒にいた方だ。状況を収めるのに慣れている。頼りになる!
「ああ悪いな? 俺とライリーも参戦するんだが……」
「はい、戦力的に大変助かります」
この場にいるのでもしかしてと思ってはいたが、閣下もこの戦いに参戦して下さるのか。愛馬であるライリーもとても好戦的な馬で有名で、頼もしすぎる戦力だ。
「俺の班なんだが、入れたい奴がいてな?」
「ああ、それなら別に構いませんよ。誰ですか?」
「別室にいる。心強い助っ人だからな、安心していいぞ。その他のメンバーはお前さんに任せる」
「分かりました。貴方がそんなに言うなんて珍しい。後で紹介して下さいね」
俺も気になるな。騎士団の者ではないのか? アントンさんとエルンストさんは何か知っているみたいだが……。もしかして閣下の弟子とか? みんなが知らない間に育てていたとか? 閣下に鍛えられたら野生味溢れる者になりそうだな。口より先に手が出そうなタイプ。いや、閣下は知力にも優れているのは分かってはいるが、普段の言動を見るとな……。どんな男だろう? 俺も会ってみたいな。
「それでは班分けをする!」
班が分けられた。俺は幸運にも閣下と同じ班になった。別室にいるという者とライリーを迎えに閣下について行く。アントン先輩は作戦会議の途中で一足先に行ったみたいだ。いつも通り作戦が決まってからまとめて聞くのだろう。
「閣下の言う助っ人ってどんな人ですかね?」
「分からん。閣下が強力な助っ人と言うくらいだ。頼もしい男じゃないか?」
「この戦いの後、騎士団に入りますかね?」
「さあ、どうだろうな。しかし、実力は閣下のお墨付きだ。戦力に欲しいな」
やはりみんな気になっているみたいだな。どういう人物かは会えば分かると言って教えてくれなかったからな。
「……貴方がここに来ているとは、珍しいですね。引退してからは滅多に来ていないのではないですか?」
っ! 国王陛下?! どうしてここへ? 急いで騎士団員全員で敬礼をする。国王陛下は最小限の護衛を連れられて、服装も落ち着いた色合いだ。しかし、頭の上の王冠がその人物が我が国の最高権力者である国王陛下だと主張している。
「ふんっ。町の非常事態だしな。それよりも国王陛下がこの町に何の用だ? 仕事はサボるなよ。こ、く、お、う、陛下? この町にいるのはお前の方が珍しいだろう」
「仕事ばっかりしていると窮屈ですから。気分転換に視察に来ました。ですが、随分とまずい時に来てしまったみたいですね……?」
「未だかつてない非常事態だな。お前さんは何もせずに偉そうにしていれば良いぞ。何せ武に関しては役立たずだからな!」
「ははは……。痛いところをつつきますね。まあ、武の方では力にならないかもしれませんが、町の損害などについての議論なら任せて下さい。この町のことはよく知っていますし、私は国王ですから多少の融通はきかせてみせますよ」
良いのか国の最高権力者! いや、町の復興に手を貸してくれるのは有り難いから良いのか? 国王陛下が直々に動かれるのはどうかと思うが、それは俺の考えることではないな。
その後閣下は国王陛下と何かしらの話し合いをしていた。話し足りないこともありそうだったが、今は非常事態だ。また後日落ち着いてから話し合うことが決まったらしい。それにしても、思ったより時間がかかっていないか? 町の状況が気になるな。
ああ、目的の部屋に着いたみたいだな。閣下が扉を開ける。
ガチャッ!
「戻ったぞ! 遅くなったな」
「うわあっ! お帰りなさい! びっくりしたよ?!」
??? あれ? 強力な助っ人はどこですか? 野生味溢れる男は? まさかこの可愛い女の子な訳ありませんよね? そうですよね? 閣下!
強力な助っ人がまさかの女の子で、しかも可愛い。同じ班になって喜べば良いのか心配すれば良いのか分からない。戦力になるのか?
そう思っていた俺たちの班の考えは見事に木っ端微塵にされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。