第23話

 ――ある見習い騎士団員視点――


 その日は普通の1日になるはずだった。いつも通り騎士団の訓練に参加して、夜になったら仲間と酒場に飲みに行く日を過ごすはずだった。しかし、この状況は一体なんだ?



「くそっ! こっちにも暴走魔野菜がいやがる! おい、そこ! 無闇に近づくんじゃねえ! 死にたいのか!?」


「住人のみなさんは結界石を! 家の中からは絶対に出ないで下さい!」


「うちの子が! うちの子がまだ外にいるんですっ! 放してください!」


「我々騎士団が保護しています! だからお母さんは家で結界石を使って、身の安全を確保して下さい。我々が暴走魔野菜を倒したら会えますから!」


 慌ただしく町を行き来する騎士。自分を含めた見習い騎士も同行している。暴走魔野菜の数が尋常ではなく、人手が必要だったからだ。魔野菜ではなく、暴走魔野菜。こちらを積極的に襲ってくる危険なモノ。


 魔野菜が魔素を取り込みすぎると暴走魔野菜になる。年に何回か魔野菜を作る時に失敗して暴走魔野菜を作ってしまう話も何度か耳にしたことがある。普通の魔野菜であれば逃げるだけだが、暴走魔野菜はこちらを襲ってくるし小さくとも知能が芽生えると聞く。


 騎士団でも苦戦すると聞くし、冒険者ギルドでは依頼を受けるランクも決まっている。そんな危険なモノが町中のあちこちにいる。


「おい。これって普通の野菜も暴走魔野菜になっていないか……?」


 同じ見習い騎士が言った言葉に納得する。確かに数があまりにも多すぎるからだ。年に数回暴走魔野菜が作られることもあるが、多くても作ってしまった所で野菜3体分。騎士団で最近倒しに行ったのは、ある村の畑で育てられた魔トーマト1体だった。たった1体なのに誰でも倒しに行ける訳ではなかった。


 そんな暴走魔野菜が複数町中にいる。きっと今いる場所だけではなく他の所にもいるのだろう。そう考えると背筋を冷たい汗が伝った。


「暴走魔野菜が複数……?!」


 1体だけでも大変だというのに複数だと!? この町はもう、終わりかもしれない……。


「集合!! 町の住人は全員結界石を使ったな?! 我々数名は報告を団長たちにする為に一時離れる。見習い数名にも同行してもらう! その他の者はこれ以上暴走魔野菜が散らばらない様、必ず数人で抑え込んでくれ! 状況が悪化、もしくは何か異変があれば速やかに報告を。これから名を呼ぶ者は私と一緒に来てもらう!」



 ……私の名が呼ばれた。危険な暴走魔野菜から一時的にでも離れることができて嬉しいが、仲間は残されたままだ。今現在町中に溢れている暴走魔野菜を倒す手立ては果たしてあるのだろうか? 町の防衛機能が働いている為、外部からは余程のことがない限り入ることはできないし、その逆でこちらから出ることもできない。


「準備は良いな? 団長たちの元へ戻るぞ!」


 考え込んでいる間にもきちんと準備はしていた。道中でも暴走魔野菜に遭遇するかもしれないので、気は抜けない。


「ここはなんとか抑えてみせる。早く戻ってこいよ!」


「ああ。頼んだ!」


 残る仲間に町のことを任せ、騎士団長の元へと急ぎ向かう。




 町中に溢れた暴走魔野菜を倒せる者か、何か有用な手立てがあれば良いのだが。

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