第18話

 ギャーギャー言い合う私たち。すると誰かが部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「ロバートです。報告と連絡事項があります」


「入れ」


 アントンさんが入室の許可を出した。報告したいことがあるって聞こえたけれど、私も聞いていいのかな?


「失礼します」


 入ってきたのはアントンさんたちよりは若いけれど私よりは年上だろう男の人だった。赤髪の黒い瞳。なんだかアントンさんに似ている気がする。いや、そっくりだよ! アントンさんの少年じゃなくて青年? 時代ですか? まだまだアントンさん若いと思うけれど。エルンストさんも!


「ロバート、何があった?」


「それが、ハイル閣下を呼びにいくのとぼ……」


 アントンさんに聞かれて答えている途中で、ロバートさんは不自然に答えるのをやめた。うん、私とばっちり目が合っちゃったね!


「どうしたんだい?」


 不思議そうにエルンストさんが聞いてくる。


「あの、そちらの子は?」


「ああ、こっちのお嬢ちゃんはハイル爺さんの連れだ」


「うむ」


 おじいちゃんがいつもよりかっこいい感じで返事をした。腕も組んじゃって、偉そうに見える。あれ? 閣下ってロバートさんは言っていたけれど、おじいちゃんって実は偉い人だったりするの?


 ……。頭が真っ白になりそうだから、おじいちゃんはおじいちゃんで! きっと若者にかっこよく見られたいお年頃なんだよ!


 うんうんとひとりで納得をする。


「ハイル閣下、こちらにいたんですね。上からの命でこの後ご自宅まで呼びに向かおうかと。閣下はいいのですが、お嬢さんは部屋を移されたほうがいいのでは?」


 ロバートさんが不思議そうに聞く。確かに私だけ部外者っぽいもんね!


「いや、嬢ちゃんもいてもらってかまわんよ」


『え?』


 おじいちゃんの返答にふたり揃って驚く。え、いいの?


「いいんですか?」


 納得のいかない顔で、今度はアントンさんとエルンストさんに聞いている。


「爺さんがいいって言っているんだ。いいんだよ」


「そうだね。大丈夫だよ」


「……そうですか」


 ふたりにも大丈夫って言われたけれど、まだ納得していなさそうなロバートさん。ごめんね? 部外者がいて!


「これ以上は時間が無くなるだろう。何があった?」


「実は――」


 諦めたロバートさんが話した。内容は町に散らばっていた暴走魔野菜たちをなんとか、何ヶ所かに集めることに成功したそう。


「ただ数が数ですので人手が足りないそうです。だからハイル閣下の呼び出しと、エルンストさんと兄さんを連れてくるようにとの指示がありました」


「兄さん?」


「ああ、ロバートは俺の従兄弟なんだよ。よく似ているだろ?」


「うん! そっくりだね!」


「そうだろう、そうだろう! 俺の若い頃にそっくりだからな。あ、俺はまだ若いぞ!」


 ロバートさんはやっぱりアントンさんと血縁関係だったんだ。ふたりが並んでいるところを見たら、本当にそっくりだよ!


「呼ばれているならば行かなければ」


「そうだな。ハイル爺さんはどうする?」


「そうだな……」


 ちらり、私を見るおじいちゃん。


「俺は嬢ちゃんと一緒におるよ」


「えっ!?」


 おじいちゃんの返答にロバートさんが驚く。私は何だかホッとした。 おじいちゃんが私を置いて行っちゃったらどうすればいいの? 部屋でひとりじっとなんてしていられないよ!


「暴走魔野菜の数が多いので、閣下にも手伝ってもらう訳にはいきませんか? ライリーも。この町にいらっしゃらなかったので、町の外にある家の方に伺おうと思っていたんです。呼び出すよう命令を受けたので、今会えてよかったです。お嬢さんは安全な所にいてもらえば?」


「やだ! おじいちゃんと一緒にいる!」


 私の初めて会った人! 正直なところ離れたらやばい。私のメンタルが! 離されてたまるかとおじいちゃんにしがみつく。


「我儘はいけないよ。ほら、離れて!」


「いーやーだーっ!」


 おじいちゃんにしがみつく私をロバートさんが無理矢理引き離そうとしてくる! やめてよ!


 さっきまで暴走魔野菜たちをひとりでも倒そうとしていたけれど。やっぱり私、おじいちゃんと離れるのはダメみたい。この世界で初めて会った人だからかなぁ?


 そういえば最初はあんなに暴走魔野菜たちに焦っていたのに、今は相棒と暴れたいと思っている。おじいちゃんとライリーの好戦的な感じが移ったのかなぁ? 短時間で!


「くっ! 離れない……っ!」


 考え込んでいる間にも私とロバートさんの攻防は続いていたよ。ライリーに乗ってここまで来た時にしがみつくのを鍛えられたみたいで、まだおじいちゃんから離れていません!


「ふたりともやめるんだ」


 お互い本気で引っ張ったり引っ張られたりしていたら、おじいちゃんに止められた。止められるまで離れなかった私の勝ちでいいのでは?


「ですが……」


「暴走魔野菜の場所には嬢ちゃんと一緒に向かう」


『えっ?!』


「いいのっ?!」


 おじいちゃんと離れなくていいし、相棒と暴れられるなんて最高だね!


「何を考えているのですかっ! 魔野菜ではなく暴走魔野菜なんですよ?」


 ロバートさんもあんなに焦るなんて……。暴走魔野菜って本当に強いの? 数が多いだけじゃなくて?


「嬢ちゃんは暴走魔野菜を倒せるから、心配いらん」


 俺とライリーもついているしな。と、おじいちゃんが言う。


「それなら……?」


「いい……のか?」


『ハイル爺さんとライリーがついているのなら……』


 アントンさんとエルンストさんは納得してくれたのかな? このふたりが反対していたのは、私がひとりで行こうとしていると思っていたからかな? こんなにすぐ納得するのなら、早く言ってほしかったよおじいちゃん!


「いい訳ないでしょう! 何を言っているんですか?」


「えっ? ロバートさんは反対なの?」


 やっと、あのふたりが納得してくれたのに!


「当たり前だ。素人を連れて行ける場所じゃないんだぞ? 大人しく安全な場所で待つのが賢い選択だよ。暴走魔野菜を倒せるなんて閣下は言ったけれど、どうせ歳のせいでボケていて普通の魔野菜と間違えたんだろう」


 うわーっ! やっぱりアントンさんと血縁関係だね! 同じようなことを言っているよ!


「俺はボケていないしまだ若いと言っているだろうがっ!」


 ゴッチンッ!





 うわ痛そう。いい音がしたね! おじいちゃんに聞こえるところで歳とかボケているなんて言うからだよ?

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