第14話

 おじいちゃんが身分証を壁にかざした瞬間、身体が吸い込まれるような感覚がした。


「あれ?」


 いつの間にかさっきまでいた場所と景色が違う? そう思って周囲をキョロキョロと見回していると……。


「爺さん、一体どこに行っていたんだ!? 町で魔野菜、暴走魔野菜が暴れまわって、大変なんだよ! 早く手伝ってくれよ!」


 おじいちゃんの知り合いなの? 急に若い男の人がふたりやって来て、その1人に怒鳴られた。誰? 怖いんだけど? 思わずおじいちゃんの服をギュッと握る。


「おい、馬鹿! いくら焦っているからって、周りはよく見ろよ。爺さんの隣に女の子がいるだろうが! お前が急に怒鳴るから、怖がっているじゃないか」


 一緒にやって来ていたもう1人が私のことを指摘した。


「あっ……!」


 今私がいることに気付いたらしい。やってしまったという顔だな、あれは。


「その、焦っていて周りが見えていなかった。急に怒鳴ってしまってすまない」


「だ、だいじょうぶです……」


 町で暴走魔野菜が暴れていて、気持ちが焦ってしまったのかな? と思いつつ、大丈夫だと伝える。何気にこれがおじいちゃん以外の人との会話なんで、緊張する。


「爺さん、念のため入ってきた身分証を確認しても?」


 2番目に声をかけてきた方が、仕事らしく記録を取るらしい。


「構わんよ」


 おじいちゃんが身分証を見せる。


「馬(相棒)と嬢ちゃんは、俺の連れだ」


「ライリーは会ったことがありますけれど、お嬢さんは初めて会いますね。ハイル爺さんのお孫さんで?」


 おおっ! 初めておじいちゃんと相棒の名前が判明したな! ……そういえば、お互い自己紹介とかしていなかったな。まあ、いっか!

 それにしても、年齢差があるもんね。おじいちゃんの孫か。なんかいいな……


「違う。嬢ちゃん、こいつはエルンストって奴で、あっちのアントンよりも落ち着いて周りの見える奴だ。何かあったら頼ると良い」


「分かった!」


 ふむふむ、何かあればその2……じゃなくて、エルンストさんに頼れば良いんだね?


 エルンストさんは雰囲気が爽やか! って感じの人だよ。見た目が水色の髪に銀色の瞳だから余計にそう思っちゃう。

 アントンさんは赤髪だね。活発な印象だな〜。あ、瞳は黒でした。


 さすが異世界。みんな地毛だよね? ……カラフルな髪色だらけなのかなぁ? おじいちゃんは白髪だったから……。瞳は金色だったけれど。ライリーは黒い馬で、おじいちゃんと同じ金眼だった! お揃いだね。


「俺にだって、頼ってくれてもいいんだからな? 爺さん、町の暴走魔野菜はどうする? 俺たちに協力するために、こっちにきたんだろう?」


 アントンさんが不貞腐れたように言いながら、おじいちゃんに聞く。うっかり、何のためにここまで来たのか忘れていたな! 私。


「ハイル爺さんの実力は確かだからな。町中にいなかったから、呼びに行こうかと話が出ていたんですよ」


 ライリーだけじゃなくて、おじいちゃんも実はヤバい人だったの? 血気盛んな感じはしていたけれど……。


「俺の畑も大変だったからな。気になって確かめにきた……お嬢ちゃんに言われて」


 最後の方はボソッと、おじいちゃんが言う。そうだよね、忘れていたものね。





 エルンストさんとアントンさんに、町の状況をおじいちゃんと聞くことになったよ!

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