第13話

「ここだ。ここからこの町の中に入ることができる」


 おじいちゃんがそう言って壁の一部を指さす。確かにちょっと周りと色が違うな。

 町を囲む高い壁。近付いたら威圧感が半端ないよ! 見上げたら、首を痛めそうなほどに高いな……。


「おじいちゃん、町の中にはどうやって入るの?」


 そもそもだけれど、入れるの? 町に。入れるよね? じゃなきゃ今までの苦労が……っ!         

 

 でも壁はキッチリと閉じている。魔法防御壁って言っていたけれど、流石に壊して中に入るわけにはいかないだろうし。中にいるだろう暴走魔野菜を留めているから。


「もちろん、壊して入る。……力尽くでな!」


「ヒヒン! ブルルっ!!」


「え゙え゙っ!?」


 え、待って。本当なの?! 壊す? 壊して良いの!? いや、ダメでしょう!

 慌てておじいちゃんたちを止めようとすれば、またあの冗談を言っている時に見せた顔……。つまり?


「冗談だ。壊したら折角の魔法防御壁の意味がないからな。ちゃんと出入りするための仕掛けがあるぞ」


 ですよね! びっくりしたじゃん! 意外とこのおじいちゃん、好戦的な感じで冗談に聞こえなかったんだよね。相棒さんもね! 長く一緒にいると性格も似るのかな?


「もうっ! ビックリさせないでよね」


「悪いな、中に入ったら直ぐに襲われるかもしれないからな。ちょっと緊張を解してやろうかと……」


 確かにそうだけれど! 驚きすぎで頭が真っ白になったよ! どうしてくれるの!?


「あまりビックリさせないでよね?」


「はははっ、悪いな!」


「ブルルッ、ブルッ!」


 さてはおじいちゃん達反応が何だか軽いし、あまり悪いとは思っていないな?


「俺達は冗談を言って良い時とダメだろう時はちゃんと考えているぞ!」


「ブルルッ!」


 私がジト目で見ていたら言い訳? された。おじいちゃんだけじゃなくて相棒さんもか!


「分かったよ。それよりも仕掛けって?」


 今は町の方が最優先だよね。どういう仕掛けなんだろう?


「仕掛けは簡単だ。ほら、壁の一部分の色が違うだろう? 東西南北各方角にこんな風に色が周りと違う部分があるんだ。」


 おじいちゃんが色の違う部分を手で叩きながら説明をする。特に何も起こらないので、触って解除とかではなさそうだね。触って解除だと、入って欲しくないモノがうっかり触って入っちゃったら大変だもんね!


「この色が違う部分に身分証をかざす。ほら、簡単だろう?」


 おじいちゃんは、自分の身分証だろう物が入っている皮のケースを私に見せてきた。身分証……。


「異世界の身分証……学生証でも大丈夫?」


 制服にしまい忘れた学生証。今はお財布の中にいます。いやだって、学生証を見せるとお得になるお店があったんだもん!

 学校がある時には制服に入れていたんだけれど、今週はずっと制服に入れ忘れてお財布の中にしまいっぱなしだったよ。


「そういや嬢ちゃんは、違うところから来たんだったっけな。違う世界の身分証……使えるかねぇ?」


「身分証って、この世界の誰もが持っている物なの?」


「普通は持っている。お役所に行って作ったり各ギルドでも作れるから、ほとんどの者が持っているはずだ」


「ギルドって何?」


 この世界のほとんどの人が、身分証を持っていることは分かったよ。でもギルドって何? 元の世界でも少し、聞き覚えはあるけれど……。


「特に大きいのは冒険者ギルドと商業ギルドだろうな。説明はこっちが落ち着いてからで良いか? 俺が身分証を持っているから、一緒に入ることができる。お前さんのが使えるかも、後で確認しておこう」


「お願いします!」



 身分証をかざす……。それだけでどうやって中に入れるんだろうね? 壁が開く? でも、それだと害のあるモノが、中と外に出たり入ったりしちゃうよね?


「準備は良いよな? じゃ、いくぞ」





 良くないですっ! と、答える前におじいちゃんが色の違う壁に身分証をかざしてしまっていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る