第10話

 ――おじいちゃん視点――


 初めて見た時は、可愛らしい嬢ちゃんがいるなと思った。でもそれはすぐに驚愕へと変わった。倒されただろう地面を見たらわかるほど、大量の魔トーマトと魔キューリの残骸が、嬢ちゃんのまわりに散乱していたからだ。この田舎にひとりで、しかも魔トーマトの赤がまるで血のように見えて、まるで惨殺現場にいるような様子だった。だが、俺は逃げた暴走魔野菜を追ってきたから、すぐに事実に気がついたが……。理由を知る俺以外が見たら、物凄い勘違いをされないか?


 とりあえず、逃した暴走魔野菜を信じられないが、この嬢ちゃんが倒したらしい。見たらわかる、こっちに思った以上の暴走魔野菜がきていたらしい。魔トーマトと魔キューリの2種類とはいえ、量が量だ。しかも暴走魔野菜だ。一般人は暴走魔野菜をそうやすやすと倒せない。普通の魔野菜と違うから、冒険者ギルドで退治の仕事もあるくらいだ。初心者のうちは受ける事もできない、意外と難易度のある仕事のはずだった。


 俺は使うことはないと思って、ただ畑に置いておいた結界の魔道具や、たまたまあった対暴走魔野菜用の魔道具のおかげで、魔法を使ってなんとか、大量に発生してしまった暴走魔野菜を倒せた。普通、暴走魔野菜には魔法はあまり効果がない。だから遠距離の魔法ではなく、近距離の物理攻撃にするんだが、野菜や魔野菜と違い硬度がある。だからこそ簡単に倒せなくて厄介なんだが……。


 この嬢ちゃん、見た目だけでは判断しちゃいけないやつなのか? 俺が知らねぇだけで、有名な冒険者だったりするのだろうか?


 考えていても答えは出ないし、自分が逃してしまった魔野菜を倒してくれたお礼も言わないとな。どういう人間か軽く見るために、少しだけからかってみよう。


『凄いな。お前さん、まだ若いのにいったいひとりで何人殺したんだ?』


 と、聞いてみたら思った以上に慌てて


『誤解です! 私は誰も殺していません!!』


 そんな! 私は無実ですという顔をされてしまった。……なんだか面白いやつだと感じた。なんだかんだ話しているうちに、魔野菜の名前を間違える、少し可哀想な子かと思ったが、どうやらそうではないらしい。



 違う世界から来た。普通に考えたら嘘だと思うだろう。しかし嬢ちゃんの様子は嘘ではなさそうだし、俺は昔みた文献で異世界から来た者がいた、という記録を見た記憶がある。まさか実際に会うことになるとは思わなかったが。そう考えていたら急に泣かれてしまった。確かに、急に移動をしてこちらにひとりで来たら不安にもなるだろう。

 俺は子供の泣き止ませ方なんて知らねぇ。どうすりゃいいんだ?




 ……。泣き止んだ。俺はそんなに面白いことをしていたのか? 泣き止んだのならいいか。せっかく可愛い顔をしているのだから笑った顔の方がいいに決まっている。それにしても、急に来て早々に暴走魔野菜に襲われるとは……。申し訳ないことをしたなと思う。


 嬢ちゃんのいたところは、魔法がないのに科学? や技術が発展している世界だと聞いた。魔法がないのに、何故魔法のことを知っているのかと思ったら、本や漫画? の定番だそうで。嬢ちゃんがこっちの世界に来たのと反対で、こちらから嬢ちゃんのいる世界に行った者がいるのかもしれないな。


 暴走魔野菜が襲ったお詫びに、家にある普通の魔野菜を食べさせることにした。思った以上に喜ばれてしまったので、婆さんに腕を振るってもらわねばなるまい。料理上手な婆さんの作る料理は絶品だし、嬢ちゃんも喜んでくれるだろう。


 大人しく待っていてくれた相棒に乗って、家に戻る。その道中嬢ちゃんから疑問に思ったことを聞かれて、始めは何を言っているんだと思ったが、考えてみればゆっくりしている場合ではなかった。



 嬢ちゃんを相棒に乗せて、急いで家の方に戻る。俺の相棒もただ事ではないことを感じて、いつもよりも速度を上げてくれる。思った以上に速く目的地に着きそうだな。




 嬢ちゃんのしがみつく力が思った以上に強すぎて、目的地まで俺の腰は持つかが心配だな。

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