第7話

 周りの赤はとっくに消えて、ただの穏やかな草原が広がっている。その中で響く私の泣き声。止まって欲しいのに、なかなか涙は止まらずに、ついにはしゃっくりも出てきてしまった。

 

 おじいちゃんは困った顔をしながら、おろおろとどうすればいいのか分からない感じで、何だかだいぶ年上の人なのに可愛らしく見えてしまう。


「ふふっ。おじいちゃん、おろおろとした姿が何だか可笑しくて涙が止まっちゃったよ!」


「……そーかい、そりゃあ良かった。別に面白い動きをした覚えはないがな」


 おじいちゃんがちょっと拗ねている? でも、面白くてちゃんと泣きやめたから!


「おじいちゃんのお陰でほら、涙もしゃっくりも止まってくれたよ! ありがとう」


「……良かったな。それで、お前さんはここにひとりでどうしたんだ? 他に家族や友人と来たりしていないのか?」


 おじいちゃんが優しく穏やかな目と声で聞いてくる。やめて! そんなに優しくされたらまた号泣しちゃうから!



「違う世界からこちらに来たって言ってたな。様子を見る限り、お前さんが嘘を言っているようにも思えんしな。でっかい何かにでも巻き込まれたのか? ひとりで……」


「私は嘘、言っていないもん。ちょうど今日がお休みの日だったから、近所の店を回るつもりで街中を歩いていただけだもん」


 本当にぶらぶらと、何か良いものでも売っていないかなと歩いていただけで……。


「気がついたらここにいて、初めて木が自分で動いてるところを見たし、私の知っている姿と似ているけど手足は向こうには無かったし、襲っても来なかった! 動かないから。動かないから!」


 大事なことだと思うので2回言う。私の世界の野菜は手足はついていないし、襲っても来ないし、木も自分で動かないから!!


「そうか、魔野菜がないのか……。それと、こっちでも木が移動することはごく稀だな。珍しいものを見たなぁ!」


 移動する木は珍しいのか。確かに木がホイホイ移動していたら色々大変そうだな!


「魔野菜も、普段は逃げるだけで襲うことはない。逃げる前に収穫をするのが普通だが。襲ってくるのは、魔素を取り込みすぎて暴走状態になったやつだ。」


「魔素?」


 こっちには酸素とか以外にも、魔素という何かが漂っているんだろうか?


「魔素。魔法を使う時にも後にも漏れ出るもので、普段からあるぞ?勿論、今もこの空気中を漂っている。」


「魔法!? この世界、魔法が本当に存在する世界なの!?」


 魔法といえば、(多分)異世界の定番だった!まさか魔法が存在するなんて……。


「魔法を知らないのに魔法を知っているのか? そっちの世界はどうなっているんだ」


 呆れたように、おじいちゃんが言う。ごめんねこっちの世界、それも私の国はオタク文化が凄いんです。想像力が凄いんです……。


「今回の魔野菜の暴走は、急にどっかからたくさんの魔素エネルギーが流れてきて、普通用に育てていた野菜まで、魔野菜になってしまったことが原因かもな。こう言っちゃなんだが結構広い畑を持っているんだ、俺はな。それが急に全部が魔野菜、しかも暴走したやつになったからな。魔法を使って何とかなったが逃げたやつがこっちに来たんだろう。巻き込んで悪かった! 怪我をしていなくて本当に良かった」


 そう言っておじいちゃんは私に頭を下げた。


「私は無事だったんだから、頭を上げて! ものすごい量の魔野菜たちだったんだけど、本当に広い畑を持っているんだね! 凄いね!」


 いやもう本当に、ものすごい量だったよ。相棒となった縄跳びが無かったら今頃……。

 ものすごく怖い想像をしてしまったんでこれ以上考えるのはやめておこう。


「お詫びと言ってはなんだが残った魔野菜が家にある。魔野菜は育てるのが面倒だが旨いんだ。食べたことがないなら、食っていけ」


「食べる食べる、食べたいです! お家にお邪魔させてもらいます!」


 なんて素敵なご招待! 破片であんなに美味しかったんだから素晴らしく美味しいに決まっているはず。早く食べたい!


「それじゃ、戻るか」


 そう言っておじいちゃんは乗ってきた馬を連れてきた。……そういえば、馬に乗って来ていたな。おじいちゃんにしか目がいかなくて!

 

 馬のことをすっかり忘れてました。

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