第6話
「ふう。縄跳びは綺麗になったけれど……」
異世界で無事? に凶器で相棒となった私の縄跳びは、拭いて綺麗になったが、まわりが赤く染まっているままだ。時間がたてば綺麗になるだろうが、まだ時間がたっていないため、ひどい光景が広がっている。
「私のまわりが赤で染まった光景、まるで私が凶悪犯のようにも見えるな……」
遠くから見れば、血の海に立つ危険な女の子に見えるだろうか? まわりが綺麗になるまで、誰にも近づかれたくない!
……。人はそれをフラグが立ったと言う。
綺麗になるまでどうしようかと悩んでいると、どこからか動物の足音が聞こえてきた。音の方を見みると、馬に乗ったまま農具を持ったおじいちゃんがこちらに向かってきていた。
何だか太陽の下で働くのが似合いそうな、近くで見ると結構逞しい体躯をした人だな。
身長も私と比べるのもアレだけれど、大きいな!
「は、はじめてのにんげん……」
元の世界では勿論会ったことはあるが、異世界では初めての人間だ。おじいちゃんは器用に綱を裁いて、私の近くまで近づいてきた。
「凄いな。お前さん、まだ若いのに、ひとりで何人殺したんだ?」
「誤解です! 私は誰も殺していません!!」
異世界で初めてかけられた言葉としては、酷すぎるのではないか? 全くの誤解だ。そう見られてしまうかもしれないが……。
「じゃあ、何を殺したんだ?」
おじいちゃんが訝しげに見つめてくる。え、私がそんなにも何かを殺したような顔をしているのか? いや、待って。おじいちゃんの表情をよく見ると……。
「たっ、楽しんでいますね!?」
よく見たら顔がニヤついている。コレ、絶対に分かって聞いていたな? こちらは危うく殺人犯と間違われてしまったかと思い、焦ったというのに!
「はっはっは! どうせ、魔トーマトを倒したんだろう? 破片から推測すると、魔キューリも倒したんだろう。立派じゃないか!」
大声で笑いながら言ってくるおじいちゃん。
ん? その言葉、どこかで聞いたことがあるような気がするけど、なかったような気もする。私の知っている名前と違うのだろうか? 異世界だから……
「魔トマト? 普通のトマトと何が違うの?」
「魔トーマトな。お前さん、あんなに分かりやすいのに、魔野菜と普通の野菜の区別がつかんのか? まだ若いのに……。名前も間違えるなんてな」
なんだかとても可哀想な目で見られてしまった。いや、だから異世界の常識は私の現実世界の非常識です。多分ね。
「もしかして、野菜に手足があるかないかで区別するんですか? あと、野菜の名前は私の世界ではトマトだったんで。魔野菜というのもこっちには存在しませんし………」
なるほど、手足が生えた野菜を魔野菜と呼ぶのか。普通の野菜も存在すると。
「私の世界? お前さん、小さな土地からでも来たのか?」
「いや、本当に違う世界からこちらに来たようで。ここはどこですか? 危険な場所ですか? なんで木が自分で動いているんですか? 野菜が手足を生やして襲ってくるのはなぜですか?!」
思っていた以上に、私は落ち着いてはいなかったらしい。最後の方ではほぼ叫ぶように聞いてしまった。
取り乱してしまった私は、色々と限界だったらしく涙が溢れ出てきた。
「よく分からないが、からかって悪かったな。お前さん、もしよければ話を聞かせてくれないか?」
「は、初めてこっちの世界で出会った人間。おじいちゃんが優しい! 私の話聞いてよ〜っ!」
こうして私は恥ずかしながら、大号泣でここに来た経緯をおじいちゃんに話すのだった。
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