6-9

 少しして巡査が六兵衛を連れてきた。

「ゴミを焼いておりましたので、水を掛けて消しました」

「いったいなんだよ。俺がなにをしたっていうんだ」

 六兵衛は巡査に掴まれた腕を乱暴に振りほどいた。

 鏡花先生はずいと六兵衛の前に進み出て、鼻先に指を突きつけた。

「六兵衛、庵主様を殺したのはおまえだな。そして江口さんに罪を着せようとした」

「なに言ってるんだ。俺は奥さんと一緒にいる時に銃声を聞いたんだ。旦那が庵主様を殺したのは、奥さんだって見ているんだぞ」

「奥さんは見ていない。奥さんが見たのは、ピストルを撃ったあとのご主人の姿です。庭からは江口さんの姿は見えますが、庵主様の遺体は見えなかった。おまえは遺体を見せないように、奥さんを庫裏に連れていったのです。そして遺体からあるものを持ち去った。

 柴折戸の修理をしていたというのも、奥さんを待ち伏せしていたのでしょう。江口さんがピストルを撃つまでは、うまいことを言って引き留めておくつもりだったのですね。

 銃声が鳴ったあと、もし奥さんが庵主様の遺体を見ていたら、とんでもないものを目にしていたでしょうね」

 六兵衛は目をそらして「ふん」と負け惜しみのように鼻を鳴らした。

 鏡花先生は巡査に、六兵衛がゴミと一緒に焼こうとしていた敷布を持ってこさせた。

 水に濡れた敷布は半分ほどが焦げていたが、中央からやや上側に大きな穴が開いていた。その穴の周りには、塗料で丸く二重に円が描かれていた。

「鏡花先生、これはどういうわけですか?」

 藤ノ木警部が髭をひねりながら訊く。僕もまったくわけがわからなかった。

「六兵衛はなんらかの方法で庵主様を殺したのですよ。たぶん鋭利な刃物ではないでしょうか。私の予想では、その凶器は江口さんの持ち物の中から見つかるでしょう。おトキさんが正午にこの寺にやって来た時には、すでに六兵衛によって殺されていたのです。

 庵主様が殺された時、江口さんは六兵衛によって飲まされた薬で眠っていたはずです。これもあとで藤ノ木警部が明らかにしてくれるでしょう。

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