6-8

 六兵衛は縁側から駆け上がって、江口の正面にあるものを見て光子へ振り返った。

『奥さん、こっちに来ちゃいけない。庵主様が撃たれて死んでいる』

 六兵衛は縁側から飛び降りて、光子を庫裏に連れて行った。

『旦那が殺したようですね。胸に大きな穴が開いていましたよ』

 光子はそれを聞いて気を失ってしまった。

 思い出しても恐ろしいのだろう。青ざめた顔で身を震わせている。

「では、あなたは庵主様の遺体は見ていないのですね」

 鏡花先生がまるで光子を責めるように言う。

「はい」

 光子は震える声で答えた。

「奥さん、家の中でなくなったものがあるはずです」

 鏡花先生は光子と警部を促して離れに向かった。なくなったものを探すなど、たとえ自分の家でも難しいのではないだろうか。

 しかし先生は、「白い布で、たぶんそれは大きなもの」と言った。

 カーテンか敷布、あとはテーブルクロスくらいしか思いつかない。

 光子はまっすぐに箪笥の前に行って引き出しを開け、敷布の枚数を数えた。

「敷布が一枚足りません」

「警部、六兵衛はどこにいますか?」

 鏡花先生は珍しく慌てている。

「さっき家に帰っていいと言いましたが」

 警部は若い巡査を呼んで、六兵衛を連れてくるように言った。

「もし、ゴミを焼いていたらやめさせてください」

 鏡花先生は巡査にそう言って、急ぐようにと付け加えた。

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