6-7

 藤ノ木警部は、光子が泣き止むのを待って再び口を開いた。

「ご主人が庵主様を怖れていた、という話を聞きましたが、本当のところはどうなんですか?」

「主人と庵主様は以前は仲はよかったんです」

「ということは、近頃はよくなかったということですか?」

 光子は渋々、という感じでうなずいた。

「主人は病気なんだと思います。戦争から帰ってからは、悪い夢を見てうなされることがあったのですが、最近はそれがひどくなって、昼間でも悪夢を見るようです」

「昼間?」

「ええ、どういうわけか、よく昼寝をするようになって、起きているのか眠っているのかわからない感じで、おかしなことを言ったりするようになりました。

「おかしなこととは、どんなことですか?」

「主人の目には何かが見えていたみたいで、蛇がいるとか、六兵衛さんがいるとか」

「医者には診せていたのですか?」

「いいえ、主人はお医者が嫌いでしたので。六兵衛さんが持ってきてくれた蛇の……」

 と、そこまで言って光子は手巾を一度口に押し当てた。

「蛇の肝を呑んだので、きっと元気になると言っていました。でも、少しもよくならなくて、余計に悪くなったような気がします」

 光子は口に当てていた手巾を今度は目に当てた。

「今日は朝から出かけていたそうですね」

「はい。叔母の家に行っておりました」

「そして帰ってきたら銃声が聞こえたのですね」

「はい」

 柴折戸の修理をしていた六兵衛と立ち話をしていると、ピストルの音が一発聞こえた。六兵衛と一緒に急いで庭を横切って離れのほうに行った。縁側は開け放してあり、夫の江口がピストルを手に持ったまま放心したように座り込んでいた。

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