6-5

「庵主様はどんな用事であなたを呼んだのですか?」

「はっきりとは聞いていませんが、六兵衛がここを辞めるかもしれないので、人手が足りなくなるという話じゃないかと思ってました。実を言うと、私は六兵衛と合わなくてここを辞めたんです。どうもあの人が気持ち悪くて。そのことは庵主様も知っていたので、またここで働かないかというお話かなと思っていました」

 その庵主が死んでしまって、おトキはひどくショックを受けているようである。

「庵主様と江口さんの関係はどうでしたか? なにか揉めているようなことはありませんでしたか?」

「私は辞めてから半年たちますが、時々庵主様と会っていました。でも、そういう話は聞いていません。庵主様も旦那様もとてもいいかたです。それに奥様も」

 江口が浄照尼を殺すなどということは信じられない、と言って涙を拭った。

「江口は庵主様を怖れている、という話を聞きましたが」

「そんなことはないと思います」

 おトキはきっぱりと言ったが、辞めてから半年たっているのだから、あまりあてにはならないだろう。

「庵主様を恨んでいるような人はいませんでしたか?」

 鏡花先生が、そう訊いた。僕と藤ノ木警部はちょっと驚いて先生を見た。状況からして江口が浄照尼を射殺したことは疑いないのに、なぜそんなことを訊くのだろう。

 おトキは首を横に振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る