6-3

「ちょっと、お伺いしますが」

 鏡花先生は丁寧に頭を下げて言った。

「向こうの裏道へ行くのに、墓場を通っていますね」

 墓場を通っていることに文句を言われると思ったのか、三人とも気まずそうに顔を見合わせた。裏道に行くための近道なのだ、というようなことを、もごもごと言う。

 先生は、裏道へ出るためには、慈光院の離れの前を通らなければならない。離れで怪しい人影を見なかったかと訊ねる。なんだそんなことか、とほっとしたように背の高い男が話しだした。

「特に怪しい人物は見なかったですよ。あそこのご主人と奥さんが、仲よさそうに縁側にいるのをよく見かけるだけです」

 すると後ろから小太りで髪を短く刈り上げた男が口を挟んだ。

「なんだ知らないのか。近頃はみんなが物騒だと言ってそこを通るのを敬遠していたじゃないか」

「そうだよ。あそこの旦那は最近、少し変だからな。目の焦点があっていないというか」

 もう一人の角帽を被った男も、さも気味悪そうに言った。

 それなのに、庭に立てたまとに向かって拳銃を撃っているのだという。いつ流れ弾が飛んでくるかわからないので、みんな近道をするのはやめているのだそうだ。

 鏡花先生は、的はどんな的だったか、とかそばにだれかいなかったか、などと細かく訊いた。

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