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光子はその日、叔母に呼ばれ四谷の家に行っていた。一人暮らしの叔母はたいそうな寂しがり屋で、風邪を引いた後なかなか元の調子に戻らず、近頃はたびたび光子を呼ぶのだった。夫の昼食を用意し、叔母のために煮物などを持って朝から出掛けた。すぐに帰ってくるつもりだったが、いつも叔母に引き止められて長居をしてしまう。その日も麻布谷町の寺に着いた時には、昼をずいぶん過ぎていた。
庫裏の横手の道に差し掛かると、
「お帰りなさいまし。今日はどちらにお出掛けで?」
「ええ、ちょっとそこまで」
お愛想の笑みが引き攣る。六兵衛が大きな目玉で無遠慮に見つめてくるので気味が悪い。
「旦那はお加減が悪いようですね。昼にちょいとお喋りに行ったんですが、えらく顔色が悪くてね。ちょうど昼飯が終ったところで、横になるとおっしゃるんで布団を敷いて差し上げました」
「まあ、それはお世話様」
家を出るときは、いつもに比べて元気そうだった。だが、一日のうちで急に具合が悪くなることもある。
急いで夫のもとに行こうとすると、六兵衛が前に回って話を始める。
「このところ、旦那のお加減はよくありませんね。奥様もさぞご心配でしょう」
いつになく真情にあふれた面持ちなので、光子はついほだされて「ええ、ほんとうに困ってますの。どうしたら治るのかわからないんですもの」と
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