3-2

「はっ、確認しておりました」

 鏡花先生は平伏したまま言った。

「またか。それで確認は終わったのか」

 紅葉先生の声は意外にも優しさが籠もっている。

「これから、でございます」

 鏡花先生は立ち上がって袴の埃を払った。

 僕も先生の後ろに隠れるようにして立ち上がった。

「では、さっさと確かめろ」

「それでは失礼して」

 鏡花先生はポストの周りを三遍回り、「終わりました」と一礼して立ち去った。

 その後ろ姿を、紅葉先生と二人見送った。

「あのう、これはどういう……」

「鏡花はな、投函口にちゃんと入ったかどうか、確認しないと気が済まないのだ。昔は延々とポストの周りを確かめていたんだが、今みたいにちょうど俺が通りかかってな、確認するのは三回にしろと言ったんだ」

「はあ」

 僕の声がよほど情けなかったのだろう。紅葉先生は「気にするな」と言った。「おまえを信用していない、というわけじゃないんだ。そういう性分なんだ」と僕の肩を、バンバンと叩いて行ってしまった。

 気にするなと言われても、鏡花先生は僕がへまをするのではないかと心配で、ずっとあとをつけてきたのだ。僕がそんなに頼りなく見えるのか、と思うと情けない気持ちで心が沈むのだった。 

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