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 原稿をポストに入れようとすると、もの凄い威圧感でそばに立っている人がいた。

 尾崎紅葉先生だった。

「どうも、こんにちは」

 僕はへどもどしながら頭を下げると同時に、原稿の入った封筒を投函口に滑り込ませた。

「おまえはたしか、鏡花の弟子だったな。鏡花の原稿か?」

「はい。お使いを頼まれまして」

「ふん。珍しいこともあるものだ」

「珍しい?」

「ああ、鏡花が原稿の投函を人に頼むなんて、信じられん」

 突然、紅葉先生は僕の頭越しに、「そこでなにをやっておるのだ。鏡花」と怒鳴った。

「え? 鏡花?」

 僕が問い掛けると同時に、風のようにだれかが走って来て、紅葉先生の前でばたりと土下座をした。

 鏡花先生だった。

 慌てて僕も土下座をする。

 見れば鏡花先生は手のひらを上に向けていた。これは新しい宗教かなにかなのだろうか。妙だと思いながらも先生に倣った。

 すごく変だ。

 鏡花先生がここにいるのも。土下座をしているのも、まるで教祖を崇めるように手のひらを上に向けているのも。

「なにをやっていたんだ」

 重々しい声が頭の上から降ってくる。


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