2-6

「土産とやらを見せてくれ」

 胸のむかつきをこらえ、強いて笑顔で言った。光子はいそいそとバッグから小さな包みを取り出した。洒落た柄の手巾ハンケチだった。自分用に買ったレエスの手巾も見せ、大事そうに箪笥に仕舞うと夕飯の支度に取りかかった。ここへ来てから二人の女中を雇ったが、なぜか長続きせずすぐに辞めてしまう。浄照尼が探してくれているが、まだ見つからないのである。

 と、庭に六兵衛が顔をのぞかせた。

「旦那、具合はどうです? 急にひっくり返っちまったんで驚きましたよ」

 どうやら心配して様子を見に来たようだ。

「布団に寝かせてくれたのはおまえかい?」

「いえ、あの尼ですよ。俺は蛇の残骸を始末しました」

「そうかい。ありがとう。しかしあの生き肝がこのあたりにつかえて、どうにも気持ちが悪いんだ」

 江口は胸のあたりをさすった。

「そのうち消化しますよ。心配いりません。それより俺は暇をもらうことにしましたよ。あの尼と顔を突合わせるのはもうごめんだ」

 たしかに六兵衛はここを辞めたほうがいいだろう。浄照尼とあれほど仲が悪いのだから。

「尼には気をつけたほうがいいですぜ」

「なぜだね」

「旦那の体の具合が悪いのはあいつのせいです。奥様との仲がいいのを妬んでいるんですよ」

「まさか」

「いいや、間違いないですよ。旦那を呪っているんです。俺は見たんですよ。墓場からこの家に向かって妙な呪文を唱えていました」

「なぜ私が憎まれにゃならんのだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る