2-4
まな板は砕け、蝮の血がついた破片は縁側に飛び散った。あたりは
六兵衛は蛇の腹を割き、生き肝を取り出した。
手のひらに載せ、「さあ」と江口のほうへ差しだす。血まみれの肝はピクピクと脈打っている。
「生きてるうちに呑み込むんです」
江口はそれに手を伸ばした。その時、なぜ俺はこの男の言うがままになってしまうのだろう、という考えがよぎった。だが、これを呑まなければ息絶えてしまう気がした。江口は素直に肝をつまみ上げると、それを呑み下したのだった。だが、生き肝は喉につかえ、いっこうに落ちていかない。江口が胸を叩いて苦しんでいると、六兵衛は湯飲みに水を入れて持って来た。
「さ、これを飲んで」
受け取って飲み干すと、生き肝のせいなのか口の中一杯に苦い味が広がった。
そこへ寺の尼がやって来た。
「なにか大きな音がしましたが、なんでございましょう」
「なんでもありませんよ。旦那が蝮を撃ち殺したんです」
六兵衛の言葉が終わらないうちに、あたりの惨状が目に入ったのだろう、「ひっ」と
「なんです、これは。六兵衛、おまえはまた殺生をしたのですね」
「殺したのは俺じゃないと言ってるだろう」
「それじゃあ、おまえの両手の血は何なんです」
尼と六兵衛が言い争う声を聞きながら、江口はふらふらと台所に向かった。呑み込んだ肝が胸のあたりにつかえて、息をするのも辛いのだ。水を飲んだが一向によくならない。
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