2-3

「すごいもんを見つけたんで、旦那のために生け捕りにしてきましたよ」

 そう言って麻袋の口を少し開け、江口に見るようにいざなった。

 引き寄せられるようにいざり寄り、首を伸ばして袋の中を見た。

 あっと叫んでのけ反り、口を押さえた。袋の中で大きなまむしが一匹、のたくっていた。

「嫌ですよ、旦那。そんな情けない声を出しちゃ」

 六兵衛が馬鹿にしたように笑う。

「しかしその蝮、真っ赤じゃないか。そんなものは見たことがない」

「ええ、だから持ってきたんです。これのぎもを呑めばどんな病人だって治っちまう。旦那のは気の病ですから覿てきめんですよ」

 さあさあ、と江口にまな板を持ってこさせ、蛇をその上に置いた。

「俺が押さえていますから、この小刀ナイフでひと思いにおりなさい」

「いや、おまえが殺ってくれ」

「だめですよ。自分で殺るから効果があるんです。まさか怖いわけじゃないですよね、大尉殿。露西亜人を何人も殺って手柄を立てたんでしょう?」

 六兵衛は小刀をそばに置いて、素手でまな板の上に蝮を押さえつけている。とてもじゃないが、蛇を触ることはできなかった。

 江口の意を察したのか、六兵衛は言った。

「じゃあ、こうしましょう。俺がこうやりますから」

 と言って蝮の頭に小刀を突き立て、まるで鰻をさばく時のようにまな板に固定した。

「さ、早く。ピストルでお撃ちなさい。ピストルは得意でしょう。蝮が死んでしまわないうちに早く」

 急かされて、なにを考える暇もなく箪笥の抽斗から二十六年式拳銃を持ってくると、蝮の赤い目玉を目印に引き金を引いた。

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