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光子は友だちと買い物に行った。去年日本橋にできた百貨店デパートメントに行ったのだ。春にも一度行ったのだが、よほど気に入ったとみえ何度も一緒に行こうと誘われた。着物を買う予定もないのに呉服店に行くこともない。江口がそう言うと、「そういうことをおっしゃるから、具合が悪いのですわ。ああいう賑やかなところへお出かけになれば、きっと気分も良くなりましてよ」と半分諦めたように言う。どう言っても江口の気が変わらないことを知っているのだ。

 軒下へさげた籠の目白が、豆伊つい豆伊つい吉利吉利きりきりと可愛く囀る。中天にあった太陽が少し傾いて、縁先から八畳へと日が差してきた。

 江口が再びまどろみかけた時、ふいに目白が騒いだ。続いて「旦那、旦那」と呼ぶ声がする。

「奥様はお出かけですか?」

 庭に六兵衛がのっそりと立っていた。逆光で見えないが、いつものようににやにや笑っているはずだ。六兵衛は寺男で、ちょっと見たところは五十歳くらいの老人に見えるが、江口と同い年の三十二歳だという。

「いいもんを持ってきましたよ」

「なんだね」

 江口は身を起こしながら言った。なにかと理由をつけて離れにやって来る六兵衛が、江口はあまり好きではなかった。いつも光子がいる時を狙ったようにやってくるので、光子も六兵衛を嫌っていた。

 しかし今日は光子がいないことを知っていてやって来たようである。

「旦那、今日も顔色が悪いですぜ」

 六兵衛は断りもなく縁側に腰掛けて言った。

「そんなんじゃ、奥様もさぞご不満でしょうよ」

 下卑た笑みを、その日焼けした顔に浮かべた。江口は気分が悪くなった。帰ってくれ、と言いかけた時、六兵衛は持っていた麻袋をひょいと掲げた。なにか生き物が入っているようで中で動いていた。

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