第3話 百鬼夜行が始まる

私はテレビをつける。テレビのニュースでは連日〇〇中学校のイジメ問題を放送している。その学校では元々イジメが原因で自殺をした少女が居たとニュースになっていたが学校側はそれを否定、イジメはなかったと公言していたがその後直ぐに別の少年がイジメられていたと母親が証言したのだ。その後、少年は失踪し母親は連日テレビで息子の安否を泣きながら叫んでいた。


「酷い話だ…」


田中 秀次(たなか しゅうじ)は目の下に大きなクマをつくり、頬がコケまるで死人のような顔をしている。錠剤を口に含み、水道水で流し込む。全く効き目は感じないが淡々と作業のように毎日飲んでいた。

秀次は仏壇の前に座り、線香を立てる。遺影は3つ立っており、歳は50歳をすぎた辺りかシワが目立つが笑顔が素敵な女性、その隣に高校生の女の子と中学生の男の子が秀次に笑いかけている。 彼らは秀次の妻と子供達だ。数ヶ月前に私が運転する車で事故が起きた。相手は過重労働の末に居眠り運転をしたトラック運転手だった。彼も歳が若く。死ぬには早すぎた。最初こそ私が殺したかったと本気で考えていたが、もう彼も私の家族と一緒に死んでしまった。この今も尚、心の真ん中に空いた穴はどうする事も出来ない。


「なあ洋子、聡美、傑、そっちはどんなだ…?良いところだよな…?お父さんな…もう限界みたいだ…」


もう涙も枯れて出てこない。

事故で秀次は2ヶ月の入院をして、仕事に復帰すると秀次のディスク机はなくなっていた。


「課長…私の机がないのですが…」


「辛い目に合った君に言うのは心苦しいが、君はクビだ。さすがに2ヶ月も休まれちゃ困るからね?契約書にはちゃんと書いてあるよ?見るかい?」


贅肉でダブついた顎を揺らしながら課長が紙を投げて寄越す。秀次は紙も拾わず、何も言わずに会社を出ていく。後ろから「返事もなしか!」と声が聞こえたがどうでもよかった。それから秀次は病院で貰った薬でボーっと過ごしてきた。だがそれも限界だと悟り、自分の部屋を後にする。会社に行くようのスーツをだらしなく着て、夜遅くにゾンビの様に街を歩く。するとボロボロの廃墟のビルが目に入る。


「ここでいいか…」


秀次はフラフラと廃墟に入っていく。中も外と同じぐらいボロボロで今の私に丁度いい。

真っ直ぐ暗い道を進んで行く。秀次は上へ上がる階段を探す。廊下の突き当たりを曲がるとエレベーターがあり、電気がまだ通っているようで階数ランプが着いている。迷わず秀次は上矢印のボタン押すとゆっくりと重たい鉄の扉は開いていく。中には蛇腹扉が閉まっていてそれも直ぐに開いていく。秀次は何も考えずにエレベーターに乗り込む。鉄の扉と蛇腹扉が閉まり、勝手に上へ上へと登っていく。秀次は力なく笑う。


「ちゃんと私の行き先をわかってるな…1番上まで頼むよ…」


するとチーンと音がなり、扉が開く。中に白スーツを着て胸には黒い薔薇を刺した中性的な人が乗ってくる。やはりまだ使われているようだと秀次は思うが気にしない。


「こんばんは!いい夜ですね。こんな日は異世界に行きたくありませんか?」


秀次は無視をする。どうやら頭がおかしな奴らしい。


「無視は酷いですね、秀次さん」


「何で名前を知っているんだ…?」


秀次は白スーツを見やるが薄ら笑みを浮かべるだけで何も返さない。


「どうやら頭がおかしいのは私の方だったみたいだな…」


「大丈夫ですよ?貴方はまだ正気です。でなければエレベーターに乗れませんから」


どうせ幻覚を見るなら妻と子供達を見たかった。こんな訳の分からない白スーツの奴など、どうでもいい早く楽になって皆の元へ向かわなければと、秀次は頭の中で考える。


「おやおや、死んでも家族になんか会えませんよ?人は死ねば無に帰る…神は苦しむ人間が大好きなのですから!でも安心してください。私は違います。貴方が笑っている方がいいですから!貴方は生きる。生きて私を楽しませて下さいね?」


白スーツが狂気じみた笑顔を向けるがどうせ幻覚を見ているに過ぎない。こんな奴の戯言に付き合ってられない。早く屋上まで着いてくれ。 するとチーンとエレベーターが鳴り蛇腹扉が開く。外は明るかった。太陽が登っている。秀次は降りていくと廃ビルではなく何処か外国的で白い建物の屋上にいる。建物の淵まで行き見渡すと眼下には白い建物がたくさん並び人々が行き来している。中には人間ではなく緑色の鱗を持ったトカゲの様な人や手や足に毛が生え、動物の耳が生えた人、全身ローブで身を包んだ人なのかすら分からない怪しいヤツが居る。


「本格的に頭がイカれたか…まぁどうでもいい…」


淵から片足を出し死への1歩を踏み込む。身体は宙空投げ出され秀次は下へと落ちていく。一瞬の浮遊感と全身への強い衝撃、グチャりと嫌な音が秀次の耳に聞こえ、下にいたであろう人達の叫び声がする。だが不思議と痛みはないし、意識もハッキリとしている。秀次は目を開ける。辺りは人集りができ、私を見下ろしているようだ。目を自分の手に向けると指はあらぬ方向を向きひしゃげ、骨が飛び出していた。秀次は目を開けたことを後悔する。人は死ぬ時に痛みを感じないと聞いた事がある、多分それだ。秀次は再び目を閉じて自分が息絶えるのを待つ、がなかなか終わりが来ない。秀次は起き上がる。周りからは絶叫が上がり、人々が秀次から距離をとる。自分の身体に目を向けると、やはり身体中からほねが飛び出し、皮膚は裂け血が滴り落ちている。普通なら死んでいてもおかしくないはずだ。


「どうなっているだ…?」


「あ…アンデットだ!!」


周りの人々が叫び出し、剣を持った人達が抜刀して何やら唱えだす。


「聖なる力を我が剣にっ!」


持っている剣が黄色い光を帯びる。他の人は短い木の枝の様な物、恐らく杖を向けている。


「ハリーポッターかなんかの撮影か…?」


その言葉と同時に一斉に秀次の身体を何かが突き抜ける。杖から出された光が、剣が、槍が、秀次の身体を壊していく。だがやはり痛みはなかった。


「なんで…私が…いつになったら終わるんだっ!」


秀次の口から出たその言葉は思いのほか大きな音となる。自分の身体を壊している人達が白目をむいて倒れ出す。再びの絶叫が辺りから広がる。


「し…死んでる!皆死んでる!」


「上級アンデットだ!即死攻撃をするぞ!」


更に人々が集まりだし、全身を白銀の鎧で身を包んだ騎士風の男が現れる。


「街中を堂々と…お前…魔王軍の者だな?」


秀次に向かってその白銀の鎧男は喋る。秀次は訳が分からず首を振る。すると首の骨がグキりと折れ、ねじ曲がる。


「なんで死なないんだ!こんなになったら普通死ぬだろ!早く私を殺してくれ!」


「お望み通り、殺してやるっ!」


白銀の鎧男が腰から銀の剣を抜き凄い速さで秀次の首を跳ね飛ばし首は空に舞、飛んでいく。血飛沫が飛び散り、あたりを血の海にかえる。秀次は首だけになっても意識が途切れない。


「何故、死ねない…何で…」


「そんな…バカな…いくらアンデットとはいえ、首を跳ねれば死ぬはず…」


その時だった。白銀の鎧男の足下に転がる死体がモゾモゾと動き出し立ち上がる。それらは白目を向いて身体を変化させていく。ある者は翼を生やし、ある者は鋭利な刃を腕から生やす、そしてある者はどんどんとその身体を大きくさせていく。彼らは化け物に変わった。

そこからは虐殺が始まった。先程の白銀の鎧男は大きくなった化け物に踏み潰され、鋭利な刃を生やした化け物は恐ろしい速さで人々を切り裂き、翼が生えた化け物は上空に舞い上がり咆哮をあげる。そうして殺された人々もまた同じように変化していく。


「まだ…幻覚をみてるみたいだ…もしかしたら私はまだ病院で入院中なのかもしれないな…」


先程潰された白銀の鎧男が立ち上がる。身体は潰れ平たくなっているが、徐々に肉が鎧からはみ出しブクブクと膨れていく。次第に肉は黒く変色し、一気に収縮する。先程の鎧男よりも一回り大きくなり、黒い鎧に身を包んだ邪悪な闇の騎士が立っていた。闇の騎士は秀次の頭を恭しく持ち上げ、身体の場所まで運ぶ。切れた首に頭をあてがうと首がくっつく。


「身体はボロボロだけど切れた所はくっつくんだ…気持ち悪いな…」


すると闇の騎士は他の化け物を連れてきて秀次の前に立たせる。すると化け物の身体が溶けだし秀次の身体を包んで行く。


「うわ!やめろ!」


そう叫ぶがそれは直ぐに秀次の身体に溶け込み消える。身体を見ると先程のボロボロな身体ではなく怪我が無くなっている。骨が突き抜け破れたスーツすら治っている。それ所かシワは無くなり目の下のクマは消え、コケた頬は若かりし事に戻っている。秀次の身体は若返っていた。


「これは…いったい…」


すると秀次の目の前に画面が現れる。そこにはこう書いてあった。


スキル

【親子殺しの罪は他人が負担】

【死人に口なし死者蘇生】

【私は死にたい不老不死】


画面から目を上げると化け物達が目の前に隊列をなし、片膝を着いて秀次を崇めるように頭を垂れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生しようとトラックに飛び込むも失敗し、それならばと異世界エレベーターに乗ったら異世界転移に成功しました マスク3枚重ね @mskttt8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ