第28話
「それギターですか?」
りりがウサギの耳を着けて学園を闊歩していると、聞き覚えのある声の女子から呼び止められた。教室の中から窓越しに、廊下にいるりりに話しかけたのは、しずくとアズサ。りりが背負っている黒いケースの中身を訪ねたのは、しずくの方。アズサは窓のふちに腕をかけてニヤニヤしている。
「ベースだよ」
「頭のそれは?」
「ウサギだよ」
ウサギである。
「どうしてそんなまた」
「ギターの逆だからね」
「ウサギの耳が?」
「ベースがだよ。ウサギの耳は、なんだろう。私ともう一人とパンダの象徴かな」
「珍しい感性ですね」
口角の上がったアズサとは対照的に、しずくの眉は八の字になって不思議がっているように見えた。
「これからなんかあるんすか?」
アズサは砕けた敬語でりりに質問する。クラスの出し物に来客した関係で二人はりりが自分たちと同じ中学二年生だと知っているが、なぜか敬語だった。
「ステージで発表」
「それでウサギ耳」
「緊張の人生初ライブだよ。恥ずかしいから見にこないでね。15時からのトリだから」
来てほしいのか、来てほしくないのか分からない言い草だ。
今の言葉ってそれぞれさっき言ってた私ともう一人とパンダの影響なのだろうかと、しずくは考えるが考えるだけ無駄ということを知らないのが不憫である。
というか人生初ライブというのもズルい。
ライブの経験は何度もあるが死んだことによって一生のお願いと同じように回数がリセットされているのだ。
「じゃーね」
りりは二人に背中を向け歩き出した。
てことは、今のじゃーねがウサギの言葉だと答えにたどり着いたしずく。
その答えに正解、不正解など存在しないが答え合わせのように、アズサと目を合わせた。急に見つめられたアズサはにやけた顔のまま首を傾げた。
それを受けて、しずくは自分の答えに自信を無くす。
「どうする?」
アズサはステージを見に行くかどうかを尋ねる。
「もちろん行くけど……」
「どした?」
しずくは浮かない表情だ。
「私、初ライブで走っちゃって壊滅してる演奏とか可哀そうで聞けない」
「ちょうどいいじゃん。お化け屋敷じゃなくて、そっちに行こう」
「ひどい。人をお化けみたいに」
「なんだよ。人をお化けみたいにするのはお化け屋敷の方だろ」
しずくは馬鹿に論破された。
「それに、あの子面白そうじゃん」
アズサは立ち上がった。椅子の足が床と擦れてズーと音を鳴らす。
「とりあえず、ごみ捨ててくるね」
しずくもよっこらせとおばちゃんみたいにゆっくり立ち上がった。
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