第23話

 りりの雰囲気が変わった。


 中学二年生になるとクラス替えが行われて、りりたちもクラスはバラバラになった。その中でも運良く、本当に良かったのか悪かったのかは判断が付かないが、トリノとアリスは同じクラスになった。お互いに仲良くしたいとは思ってない二人だが、他に話す相手もいないので自然に同じグループになる。



「りりが変わった?」


「うん」



 野菜ジュースを飲みながらトリノが頷いた。サラダを食べながら一日分の野菜が摂取できると謳っているジュースを飲んでいる。過剰摂取ではないのかとアリスは思うが、指摘することはない。



「私には分からないな。どういう風に」


「なんだか大人になったみたい。タバコも吸わなくなった」


「はあ」



 普通はタバコを吸うのが大人だ。


 タバコを吸わなくなって大人になったと言われるりりは変だ。


 不条理なことばかり。アリスは嫌になってくる。


 アリスの大きなため息を聞いて、トリノは不満な顔をした。



「なんだよ」


「大人が禁煙をしても子供にはならないのに、子供が禁煙をしたら大人になるのは不思議だなと思ってな」


「難しいこと言わないでよ。ルールを守るのは大人でしょ」


「……そうだな」



 別にルールを守らない大人もいるとアリスは思ったが、それを指摘するくらいなら、野菜ジュースを飲みながらサラダを食べていることの方を指摘する。



「ほら。じゃあ、子供はタバコを吸っちゃダメってルールを守ってるりりは大人になったんだよ」


「……酔いそう」



 子供のルールを守っているりりは、やっぱり子供じゃないかと指摘したい。でもしない。あんまり仲良くないから、うんうんと頷いておくのが無難なコミュニケーションだ。女子は共感が大切。



「いつからそう感じるようになったんだ?」


「うーん。初めはカラオケのときかな。アリスが突然言い出して、みんなで銭湯に行ったことがあってでしょ?」


「ああ、あったな」


「次の日にカラオケに行ったの……」



 じゃあ、あの大胆なトリノの告白じゃんけんに対して、一世一代のあいこを決めに行き、嘘か真か場を和ませるために、前世がギターを極めた男だという凄く辻褄が合う妄想を語ったことが原因だとアリスは考えたが、その考えは、トリノの次の言葉で吹っ飛ぶことになる。



「パンダが……」


「パンダ?」


「りりの歌にパンダが流れているような気がしてね」



 アリスの脳内はパンダの顔で支配された。



「意味が分からない」


「え、アリスにも意味が分からないことがあるんだね」


「……」



 自分が賢者のように思われていたことにビックリして声が出ない。



「とにかく絶対変だって」



 りりが変なのはいつもだ。


 変なのが普通になったどころかパンダになったのが問題なのではないだろうか。



「……銭湯に行ったときから何度か話しているけど、普通だったような」


「普段どんな話をしてるの?」


「……喧嘩とか?」


「喧嘩するほど仲が良いっていうもんね」



 トリノは嫉妬に溢れたようなブスっとした表情になったが、アリスにとってそれは不本意な解釈だった。


 アリスはりりの人間性が嫌いなのだ。

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