第40話 湖のほとりで
「わあっ! 竜だ、2頭の竜が飛んでいるよ!!」
それぞれの竜の背中に乗って、空を駆けるドレイクとフィオナ。
眼下では、街の人々が2人を指さしたり、声をかけながら手を振る姿が見えた。
「よく見えますね……! オークランドの森は、本当に美しいです」
翼竜のアルディオンと古竜のアトラスは、絶妙のコンビネーションで、空中を自由自在に飛翔していた。
フィオナは大丈夫か。
不安になったドレイクが振り返ると、古竜の背中にまたがり、笑顔で全身を風に吹かれているフィオナの姿が見えた。
ピンク色の瞳はキラキラと輝き、白いふわふわとした髪は、後ろになびいている。
竜に顔を寄せ、何かを話しかけている様子だった。
「心配はなさそうだな」
ドレイクも表情を緩めると、前方に見えてきた湖に目をやった。
黒竜もキュイ、と嬉しそうに声を上げた。
「お前も水浴びができるぞ」
ドレイクは黒竜の首をぽんぽんと叩いてやると、竜は大喜びで、湖に向かって一目散に向かっていった。
* * *
「陛下、フィオナ様!!」
湖に着くと、一足先に到着して、ピクニックの用意をしてくれていたエマが、大きく手を振った。
「エマ!」
フィオナは軽々と古竜の背中から滑り降りると、エマの元へ走って行った。
今日のフィオナは、動きやすい、まるで男の子のような服装をしていた。
チュニックの上には、体を保護するために革の胴衣を付け、ブーツにグローブ、そして風避けにしっかりとしたマントも身に付けている。
こんな格好もフィオナらしくて、ドレイクは好きだった。
本人には気づかれないようにしながら、ちょこちょこと元気に動き回るフィオナを眺めて楽しむ。
「フィオナ様、無事に着いて良かったです。おケガなどはありませんでしたか!?」
「大丈夫よ」
フィオナがエマに駆け寄っている間に、古竜は湖の中央に向かって飛んでいき、派手な
「迫力ある音だなぁ」
古竜に続いて、黒竜も水面にダイブした様子を見て、ドレイクが感心しながら言った。
「竜達、楽しそうですね。ここに来れて良かった」
「湖の周りを散歩する前に、早速何か食べるか?」
にこにこしているフィオナに、ドレイクが言った。
「はいっ!」
フィオナの元気のよい返事に、エマも笑顔でバスケットを開け、用意した軽食を並べてくれた。
お湯もすでに沸いていて、すぐに紅茶を入れ始める。
朝、早く起きたので、もうお腹を空かせたフィオナは大喜びで、紅茶を飲み、焼きドーナツを食べて、ブルーベリーをドレイクに1粒ずつ食べさせてもらった。
フィオナとドレイクが湖の周囲を歩き回っていると、ようやく水遊びに飽きた竜達が水から上がってきて、日当たりの良い丘の上に寝そべった。
日光浴がてら、体を乾かそう、ということらしい。
そののどかな様子に、護衛として同行した騎士達が、びっくりしたような様子で、2頭の竜を眺めていた。
ドレイクとフィオナがあちこち散策して、お腹が空いた頃に、ちょうどお昼ごはんになり、ピクニックに随行してくれた者達も一緒に、全員でお弁当を食べた。
メニューはサンドイッチだ。
たっぷりのローストチキンと骨付きのハム、ベーコン、チーズ。それにたっぷりのカット野菜が用意されていた。
それぞれが具材を選んでパンに挟み、好みのサンドイッチを作る。
若い騎士が肉ばかりをまるでタワーのように厚く積み上げて、パンを被せられなくなったサンドイッチを、他の騎士達が囃し立てる。
エマはお肉と野菜をバランスよく挟んだサンドイッチを綺麗に作り、フィオナに渡してくれる。
それを見て、負けじとドレイクも自分の好物を詰め込んだ特製サンドイッチを作り、フィオナに渡した。
「わぁ、もうお腹いっぱいです!」
サンドイッチを2つ手にしたフィオナが叫んだ。
フィオナもまた、ドレイクのために、フィオナセレクトの具材でサンドイッチを作って上げた。ドレイクは大満足である。
昼食の場は和やかに進んだのだった。
* * *
午後遅くになると、少し風が出て、涼しくなる。
楽しかったピクニックも、そろそろお開きが近い。
「暗くなると危ないから、そろそろ王城へ戻ろう」
「はい、ドレイク様」
フィオナが立ち上がると、ドレイクは持っていたブランケットをフィオナの肩から羽織らせてくれた。
最後に、もう1度、と2人は水際まで歩いた。
竜達は静かに草地で座っている。
エマと随行の騎士達は、荷物を馬車に詰め込み、帰城の準備をしていた。
「ドレイク様、今日はありがとうございました。湖はとても綺麗で、とても楽しかったです」
「礼には及ばない。フィオナが楽しんだのなら、良かった」
そのまま、しばらく2人は無言でいた。
「フィオナ」
ドレイクは、フィオナに呼びかけると、フィオナの前に、ひざまづいた。
「ドレイク様?」
驚いたフィオナが、ドレイクを見つめる。
ドレイクはフィオナの手を取って、そっと指先に口づけた。
「フィオナ、俺と結婚してほしい」
「!」
フィオナの表情は驚きから、徐々に、赤く染まっていく。
「精霊女王に約束したように、俺は、生涯、お前を守る。どうか、俺を、お前の夫として、生涯、お前を守らせてくれないか?」
「ドレイク様」
ドレイクは胸の隠しポケットから、小さな袋を取り出すと、金色の輪に、ピンク色の宝石と、黒の水晶が嵌め込まれた指輪をフィオナの薬指に嵌めた。
「愛している、フィオナ。永遠にお前と一緒だ」
フィオナのほっそりとした指で、指輪が金色に光っている。
フィオナのピンク色の瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「ドレイク様、大好きです! ずっと、ずっと、ドレイク様の側にいたかった。ずっと、わたしを側に置いてください!」
フィオナが泣きながら、微笑んだ。
ピンク色の瞳に浮かんだ涙が、まるで宝石のようで。
ドレイクは、宝石の涙を浮かべたフィオナの唇に、初めてキスをして、ぎゅっと自分の胸の中に閉じ込めたのだった。
「帰りは、黒竜に一緒に乗っていくか?」
その言葉を聞いた瞬間。
フィオナの姿が消えた。
ふぁさ、とフィオナが着ていた服一式とブランケットが地面に落ちる。
服の中でもぞもぞしていた白ウサギは、迷うことなく、ドレイクの胸の中にぴょん、と飛び込んだのだった。
「うわ、指輪は!?」
ドレイクは一瞬焦って、地面に目をやったが、指輪はどこにも落ちていない。
不思議なことに、金の指輪は、白ウサギのふわふわしたつま先に、ちょこんと嵌ったままだった。
「フィオナ様ーっ!!」
遠くから、エマの悲鳴が聞こえた。
* * *
ドレイクがフィオナにプロポーズした日。
ウサギに変身したフィオナは、ドレイクの胸の中にもぐり込み、ドレイクと一緒に、空を飛ぶ黒竜の背中から見える景色を眺めた。
1人で飛ぶ古竜が、急上昇をしたり、回転したりと、曲芸飛行を楽しんでいる様子を、フィオナはウサギの耳をぴくぴくさせながら、楽しんだのだった。
オークランドの王城の上空に着いた時は、ちょうど夕暮れで、フィオナとドレイクは、オークの森の向こうに沈む、壮大な夕日を見ることができたのだった。
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