第33話 学友との再会

 踏み込んだ先には、探し続けた少女の姿はなかった。

 その代わり。


「……久しぶりだな、ドレイク」


 ドレイクがめくり上げた天蓋の向こう、広々としたベッドに座っていたのは、アルワーン王国国王、そしてかつてドレイクの学友でもあった、アルファイドだった。


 2人は10年振りにお互いを見つめ合う。


 お互いに、その容貌に大きな変化はない。

 しかし、ドレイクはより鍛えられ、体に付いた傷跡は増え、表情はより厳しくなった。

 アルファイドの方も、線が細かった少年時代の面影は薄れてきたものの、それでもその美貌は変わらない。

 そして、アルファイドの表情もまた、より厳しさを増しているように見えた。


 今、アルファイドは薄く微笑みを浮かべながらも、ドレイクを前に、一歩も引くことなく、対峙していた。


 ドレイクは、形ばかり被っていた紺のベールを床に投げ捨てる。

 ドレイクの後ろで、ユリウスもまた、ベールを床に落とした。


「お前の珍しい女装姿が見れるかと思ったが、残念だったな」


 くすくすと笑うアルファイドに、ドレイクは言った。


「フィオナをどこへやった?」

「フィオナ?」

「お前がオークランドからさらった娘だ。どうして、こんなことをした」

「お前がひた隠しにする娘がいると聞いて、興味を持ってね」

「何だと!?」


「残念だったな。ザハラからお前達が来ていることを教えられた。それで、一足早く、アルナブをとある場所に隠したのだよ。お前はザハラを疑うべきだった。彼女が私を裏切ることはないのだから」

「なぜフィオナを狙う。フィオナは俺とも、オークランドとも無関係だろう」


「ドレイク、この10年間に起こったことを考えれば、私がお前を恨んでいると、思わなかったのか?」


「お前の国が、オークランドに攻め込んだのだろう。俺を恨むとか、何を言うか。それとも、お前が幽閉されたことを言っているのか? それは逆恨みだろう。やったのは、お前の親父と兄貴だ」

「精霊なんて信じなければ、あんなことは起こらなかった。私が幽閉されることもなかったし、私が父と兄を処分することもなかった」

「本当にそう思っているのか?」


 ドレイクとアルファイドは睨み合った。


「お前は、フィオナを手元に置いておきたかったのではないのか?」

「そんなことはない。私にはザハラがいる」

「お前が失ったと思っている、精霊国とのつながりがあると、本当に考えなかったのか? フィオナがウサギに変身する姿を見て?」


 アルファイドは押し黙った。


「図星か」

 ドレイクが吐き捨てた。


 ややあって、アルファイドはためらいながら言った。


「……あの娘は、竜の眠る谷に連れて行った」


 * * *


「私は何をしているんだ……」


 ドレイクとユリウスが後宮から立ち去った後、アルファイドはぽつりと言った。


 寵姫アルナブの部屋である。

 とはいえ、寵姫はすでに後宮にはいないし、アルファイドはドレイクとユリウスを無傷のままフィオナの元へと行かせてしまった。


 一体、自分は何をやっているのだ。

 自分自身でも、さっぱりわからない。

 オークランドと事を構えたいのか。

 ただドレイクに嫌がらせをしたいのか。


 アルファイドはため息をついた。


「あの男……いいのか、黙って行かせてしまって」


 アルファイドが呟くと、音もなく現れたザハラが、ただ、花のように微笑んだ。


「今まで黙っていて、済まなかった。私は知っていたのだ。オークランドにいた時に、ユリウスを見て、何てお前にそっくりなんだ、と思ったのだから。あの男は、どう見ても、お前と血縁があるとしか、思えない。銀の髪に紫の瞳なんて、私が今までに出会ったことのあるのは、お前とユリウスだけなんだ」


「アルファイド様、良いのです」


 ザハラはそっとアルファイドを抱きしめた。


「あなたがおっしゃったその通りなのですよ? わたくしがあなたを裏切ることは決してありません。あなたがそれをわかって下さって、わたくしはとても嬉しかった。あなたがいてくれるだけで、それだけで良いのです。そしてあなたもーーわたくしを側に置いておきたいと、思われたのでしょう……?」


 ザハラは首をかしげた。


「あの黒髪の方が、オークランド国王のドレイク様なのですね? 今でも、アルファイド様のお友達なのですか? それとも、敵国の王ですか?」


 アルファイドは苦笑した。


「それがわかれば苦労はしない」

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