contact19―煙月7―
どうも落ち着かない。
元から女子から付き合うというものを知らない。
恋愛をやったことも訓練もしていないからだ。
「恋に訓練なんかさせる?そんなのが素晴らしいものかよ」
朝飯を済ませてから顔を洗っていた。
オレは、まだ洗面所を使えることに困惑していたが魔法を見た翌日になれば耐性はつく。
洗面の設備でどうなっているのか存じ上げない。
ヒビが走っている壁の目立つオシャレなトイレ。
魔法で修理したのか不自由なく水は流れる。
今オレが手のひらと手のひらを合わせて前にかざすと自動で水が設定した水流で蛇口から流れていく。
「整備もしているはずがない。
これも魔法で滞りなく以前のように戻している?
果たしてそうか?」
愚痴を息をするように零している自分がほとほと
嫌になる。
スマホを取り出して今日のインスタグラムでストーリーをチェック。気になるのは後で見るとして
次にアイリスにメッセージアプリで送信。
いつものようにスマホを使って気づかなかったが
充電した残量が、あとわずか。
「そこまでだ」
「その声……」
「ヨシナオ。
またデバイスとやらを触っていたのか。
小さいがそんなに熱心になれるものなのか」
耳にリラクゼーションある美しい声。
その声はルリアンナ。
でもここさ男子トイレで、彼女は恥じらいを捨てているのかそれとも最初からないのか堂々とした振る舞いで入ってきた。
「きゃあっ!?なんで入ってきているんだ。
ここは男子トイレだぞ」
「それはニホンのジョークという文化なのだろう。いくらここでの文化や習慣。そして基礎的な作法を知らなくてもトイレは世界が違っても同じだ。
あの
なにやら自信に満々でいられるルリアンナが指していたのはドアを半開きした便座。
トイレに入ってきて奥にトイレということの言葉を訝しむ。
立ち竦んでいるとルリアンナまでも疑問符を抱く。そうか。
「なんていうかドアで遮られる四方の空間だけが
トイレじゃないんだ。
なんていうか大きな排泄するところ。
で、これは簡易的に済ませる排泄ための便器」
「ふむふむ」
「……それから手洗いも含めてトイレなんだよ。
あの人型マークみたいなの見えるよな?
青いのは男子用で赤いのは女子用。
んっ、ここ会社なら男子も女子は違うか」
「ほう。それは快適なスペースなのだなトイレは」
なんで異界の
でも頷いて理解しているなら
虚無感を寄せるのを霧散していく。
「それでいいかなルリアンナさん」
「ああ、相談ならここでも聞くのも構わぬ」
「そうでは、ありません。
ここ男性トイレ。
……分かりますよね。そろそろ出ていってくれませんかねルリアンナさんッ!?」
悲痛めいた叫びを上げる。
ルリアンナは目をなんども瞬きしてから頬を緩めて出ていくと言って踵を返すのだった。
「ここにいたら迷惑になるな。失礼させてもらう」
ほんとうに異界人なんだなルリアンナは。
まさかトイレのスペースだけで認識が違うとは。
おや、もしかしたら彼女のいる異界とは違うのか。
「待ってくれルリアンナさん。
あっちの世界ではトイレはこことは違うのですか」
「そうだな。
あの箱をしたのが私たちのトイレで、ここまで整えていなかったよ」
照れくさそうに笑いながら返答をする。
あの表情から嘘ではないようだ。
となれば漂流してきた前にいたのが中世ヨーロッパ舞台にした世界観なのかな。
どうあれ今は登校を急がないと!
――支度を終えて階段を降りていく。
制服はここで寝過ごした昨日と同じ。そのまま行こうと考えている。
さすがに匂わないと思うがファブリーズとかでも買ってから掛けておくか。
「学びにゆくのだな。
尽力するのだぞヨシナオ。
安全とは聞いているが道中は細心の注意を忘れることなかれ……気をつけてゆくのだぞ」
「あ、ありがとうございますルリアンナさん。
でも見送りにしては重たいにもほどがある!?」
ビルから出ていき敷地の出入口まで並んで歩いていたルリアンナ。
小さく手を振って見送りをする彼女に脱力をおぼえながらオレも手を振って返した。
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