contact14―煙月2―

血の気が下がり気を失いそうになった。

地上にいたはずが目映まばゆい真っ白な閃光が視界をさえぎらせた直後に空へ移された。


「待ってくれ。なんの冗談、これ夢か。

天地がひっくり返った!?」


まるで転移魔法だ。

かすみがかる月が近くに浴びながら。

視線の下には、ディテールに欠けた建物。

遠くて輪郭しか視認は出来ないがその周辺にある自然の色や形状から見下ろすに。


「ここにいたはずのスウィフト社。

ううん、否というべきだな。

今ここにいるのは夜空のえりも町……」


常識内にある物理法則から大きく逸脱した現象を引き起こされて生きて培ったものが崩れている。

混乱した意識の中では常識の範疇外はんちゅうがい

崩れた現実では無い方向へ思考することにした。


「ノブ、アスディティア……アカ」


「これはルリアンナがしたのか。

浮かんでいる夜空の下に立っていた場所から……

オレ達がここで飛ばされて浮かばされているのは」


なんて詰問をしてきるんだと自分のことながら呆れてしまいながら。

オレは風圧に見舞われながらも落下していない物体を触れようと腰を下げる。かがんで触れるのは淡色的に光り続ける魔法陣を。


「くっ、ノオイカイ!」


「うわぁっ!?なんでイラついているか知らないがルリアンナ、ここで乱暴やめろ!

八つ当たりで壊れないか怖いんだぞ」


こちらも八つ当たり気味に怒鳴ってしまったが、

ルリアンナは聞く耳を持たない。

膝を崩れるようになる彼女は色鮮やかな赤い髪が目を覆うように拳を振り下ろしていた。

これは相当に参っていられる様子の模様。

長く伸ばした赤の髪をカーテンにどんな表情を顕にしているか窺えしれないがその陰鬱とした雰囲気。

そして悔しみや絶望が発露するように見える。


「ブラディ、カゥズ」


「なぁ……どういう悩みがあるかはオレには察してやれないけど長い時間をかけて解決すればいいんじゃねぇ?

そう落ち込まなくても」


「ラーク、シアマ!ラーク、シアマァァッ!!」


「ねぇっ!?ただの今すぐ出ていけ熟語的なものが罵倒になっていないかな」


「ブラディサン!ラーク、シアマ」


「あー、はいはい。今すぐ出ていくから降ろしてくれませんか。

いつ落ちるか怖くてヒヤヒヤして生きた心地しないんスけど」


「……フンッ」


ルリアンナは鼻を鳴らして応えるだけ。

あっ、これ小馬鹿にしているなぁ。

少し心配しすぎかもしれないが強風で今にも飛ばされないとも限らないし。

それだけ悪い予感が何度も何度だって過ぎられるのは魔法陣の厚さだ。紙よりも薄く、ルリアンナがチョークらしきもの描いたもの実体化させて飛行物としている。

さながらアラジンの空飛ぶ絨毯じゅうたんだ。

がしかし。魔法陣を描いただけの上に乗っている。

それはもう心許こころもとない。いつ落ちるか恐怖と不安だけで塗り潰される。

泥舟どころ話でない。紙に等しい船だ。

絨毯ならまだともかく魔法陣は最悪だ。


「……はは。

もうアラジンの絨毯や異世界モノを純粋に

楽しめそうにないかな」


しかもこの魔法陣はどういう理屈で仕組みになっているのか。そこはもう魔法と片付けるとしよう。

半透明の白をしていて視線上からは陣の越しから先が見通せる。

もう彼女も上空から町や自然を眺望ちょうぼうを満足したのだろうか。

再びダンスを始めると魔法陣は、おもむろに降下していく。ゆっくりと降りていく中でルリアンナの横顔を見てみると悲壮感でなぜだか漂わせていた。

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