contact13―煙月―

黄昏のとき。

異界の異種族との接触をまた試みる事にした。

授業中で少しだけ制限したスマホを弄り。

地をこり固めたような薄赤い静かな道。

見えてきた不気味な残照を浴びて光る建造物。


「体の中まで薄赤い光で感じる」


ひとりでに言葉が零していた。

放置されて何年になるか。

スウィフト社の表門から入る。

このまま見て見ぬふりするのはルリアンナも放置するのと一緒。

食堂室にはいなかった。

つい長くいる時間がここだと錯覚してしまう。

ここで最初に出逢った場所だからか。夜に照らされる彼女の衝撃が大きく、どうしてもここが先に足を向けてしまう。

屋上に行ったがそこもいない。

今にも朽ちそうなフロアをまわりながら探していき、もうどこにもいないと諦めがける時だった。


「ここにいたのかルリアンナ」


「……カタラシア。シアマ」


数週間を開けての訪問なのにルリアンナは、ぜんぜん歓迎してくれない。

むしろ厄介な奴がまた来たかと冷ややかな視線を送るだけであった。

確認だけして、すぐ視線を作業へと戻る。


「今日はなかなか本格的な紋章を書いていますね。

何をしているのですか?ここでルリアンナさん」


「……」


「もし当たっていたならオレの予想では魔法陣。

よくあるルーン文字とも何か違う字体?

でも複雑な文字をきれいに連ねていると芸術的だ」


「…………」


「詠唱が条件にした魔法とかありますけどルリアンナさんの魔法はそれに付随しますか。

それとも手書きなどで儀式的な条件によるもの発現をされるものかルリアンナ興味があります」


「はぁー。シアマ、シアマ」


羽虫を払うように不機嫌そうなルリアンナ。

横から入ってきて質問を何度も攻められてはオレでも参る。

ここは引いて見守ることにしておこう。

見つけたルリアンナに挨拶代わりの捲し立てて自然とここで居てもいい流れへと持っていく。

留まってもおかしくない状況のために口走った。

でも魔法陣がいつものようなものと違って途中から本気だった。


「あの魔法陣、これだけ時間をかけてまで組み上げて何をするんだ?」


応えてくれずスルーされる。

しかし存外と嘆くべきか。言葉が通じないのはもどかしくなるものだ。

翻訳コンニャクよろしく異なる世界から飛び越えてきた生物でも共通の言語とさせる魔術師の飴玉。

すでにそれによる効力は切れてしまっている。

手元にあれば……。

ふと、ついつい考えてしまう。

作業に没頭しているなら話すのは後になるか。


「じゃあ時間の潰し方は」


このフロアは壁が大きく人為的によるもので破壊されている。

たぶん剣やら魔法で打ち壊して。

オレは見知らぬ魔法陣が組み上げるまでスマホで時間を有効的に使うことにした。


「――リィミガ、サライヤマ、アッベルアイクス?

ディガィガ。

……アルタルマ!」


スクリーン画面から顔を上げると次のステップに

入っていた。

無言で続けていた魔法陣から今度は、その中から出ないようダンスをしていた。

日は沈んだ。

盛大に開いた壁から差し込むのは月夜。

夕景にある時刻だったのに今は夜になっているのかとスマホに夢中なっている自分に反省しながら。


「ルリアンナこの辺にして。食事にしないか?

コンビニでお弁当を買ってきたんだけど」


しかしルリアンナは踊りに集中しており見向きもしない。

それにしても。


「トルマリ、イダム」


「ドワーフなのに、美しいんだよなあ」


頭でまだ懐疑的であるのに。ドワーフなんて見紛う彼女にしばらく見入ってしまう。

踊りの洗練されていて元々の美貌、それと魔術師を月夜を射し込まらて輝いている。

神聖な景色を眺めていると魔法陣は光り出す。


「ディホプルツ!!」


なにか希望を見いだしたように歓喜して今まで見たことのない笑みをたたえるルリアンナ。

そんな笑顔をするのか、すると……光が襲った。

ぼんやり見ていると視界が真っ白に広がる。

眩しくなる白光に対して目を閉じる。


「なんの光なんだこれはッ!?ルリアンナ!!」


まだ瞼の裏にまで届いているのを腕で覆う。

そして魔法陣のあるところに飛び出す。

咄嗟の判断、いや身体が勝手に動いた。

少しは身の盾にでもなるつもりなのかオレは。

――強い光が消えると地面がなくなった。

踏むべき地面がなくなり浮遊感に放り込まれる。

激しく風が吹き抜けていくのを全身に襲われながら目を開けるとオレは目の前のことに絶句した。


「そ、空の上ぇぇぇぇーーーッ!?」


辺りは夜空。オレとルリアンナは魔法陣の上に立っている。

上空は何キロになるかも存じぬ高さ。

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