contact12―魔術師マサノブ―

濃い闇に包まれる。

夜半に満ちている涼やかな空気にあてながら一人、ローブを全身に隠された小柄な人影。


「午前の一時……ふっ。なんて美しい月明かりよ」


迷いのない足取りで先へと進む。

まだ黎明までは遠く、辺りを霧の往来で視界を遮っている。


彷徨さまようものか」


地を響くような声。ローブをはためかせて歩いた先にあるのは何ヶ所か崩れた穴があるビル。

かつてはロボット事業に心血を注いでいたとローブ存在はる。スウィフト株式会社の中へと入りこんで目的の人物に接触せんと近づく。

気配を察知されないように魔術的にほどこした紋様でいたがルリアンナは気を消しても気づく。

異分子に背後を近づいたことに不覚を恥入る。

振り返ってみて接近したのが知り合いに安堵する。


「気配には鋭いのだが、これも魔術師とやらか。

さすがと褒めておこう。

しかし神出鬼没であるのだなマサノブは」


マサノブとは魔術師の名前である。

スムーズに話せているのは別段マサノブが語学を明るい訳ではなく魔術師の飴玉を舐めて日本語に自動的に変換されたのだ。


「そう警戒するなルリアンナ・スティーエルネ。

食事を持ってきた」


「……恐れ入る」


「何をしていた。

まさかその神にまつるために語ったダンスをしていたのか」


「ええ。元の世界に帰還するためにね」


「諦めの悪いドワーフだ。空腹では頭は鈍くなるたいう、少しは食べろ」


案外こういうところ細かいことを口にする魔術師。

受け取ったサンドイッチやドリンクをゆっくり取り始める。


「それでもう一人の行方はどうした?

賑やかな奴がいないと寂しいものだ」


「まさか口数の少ない貴方が……私になんの用?」


「用はない。体調を壊していないか見に来ただけのこと。では」


「ええ、さようなら……」


ここへは客人として訪れる魔術師。

細かい日時は指定されておらず気分によって今のような深夜の時間には雑だったりする。

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