contact10―異世界から召喚されたら先ずは言語に直面するだろうね6―

それから一週間。

まだルリアンナの出身やら異世界での詳しいことを知らないまま。

がむしゃら言葉を使ったことで理解したこと。

なんとか通じた言葉は『ラーク、シアマ』と『ノオイカイ』の二つだけである。

ラークシアマ、今すぐに出て行け!

ノオイアイ、なんて事だ。もしくは詰んだ?

彼女が言の葉したニューアンスから当て推量。

それも定義は、きっと差異もあって間違いとかもあるだろう。

勝手にオレがはかってそう捉えたに過ぎず。

こんなの自分だけで勝手に推測した根拠のないものでまさしく揣摩臆測しまおくそくだ。


「今日は、久しぶりのポッチ飯をする日!

青空を仰ぎながら風流な食事でも取るとしますか」


売店でなんとか購入したカレーパンと牛乳。

そのまま屋上に続く階段を上っていく。

正午となるとアイリスは別で食事を摂る。

流行に明るく、そして流れに乗ろうとする女子三人に誘われたからだ。

本人は至って迷惑そうな雰囲気。

しかし顔には出さないよう気をつける配慮はある。とても遠ましな声調を込めて。

あまりにも迂遠な為に囲んで参加することになる。

たまにはアイリスも同じ女子と仲良くするべき。

退屈な動作に、映えない景色は苦痛なのでスマホを触る。

さすがに意識をスクリーン画面に向かわないニュースの記事とか流しながらチェックだけにする。

最後の段に着いてドアノブを回そうとして声が聞こえて手を引いた。


「先輩を物陰から見ていました。

めちゃカッコイイ!あの、つまりですね……

その付き合ってくださると嬉しいかなって。

なんて期待したり」


「……ウソだろ」


細々とした声がつい零れる。

きっと聴こえていないはずだ。

屋上のドアの前で告白している最中らしい。

このご時世でまだ直接ぶつけようとする猛者が残っていたとはと感心する。

今この時代ではスマホで気軽そうに装いながら交際を申し込むことが一般化している。

そんな前時代的な愛を告げ方をしていることにオレは趣味が悪いと分かりながらも耳をドアにあてる。


「あぁー。やっぱり呼び出したのは、それなのか。

こんな無骨な男子高校生なんか惚れてほまれ高いと言うか率直に嬉しいぞ」


あれ?どこかこの声なんか聞き覚えとかあるぞ。

アイリスのお兄ちゃんとか、アイリスのお兄さんやらアイリスの兄貴かな。

なおアイリスの兄は一人だけ。


「わあぁーっ!でしたら前向きな返事をしてくれるのですね。

よぉーし。この恋ここからスタートして大勝利!」


なんだろう色々と痛いぞ。この子は!


「だがその返事は断らせてもらいたい」


「ふえっ?ど、どうしてですかッ!?

交際しているのですか。

好きな人がいるのですか!でしたら、この私に教えてください。その子よりも可愛くなります」


いな!残念なことに付き合っている好きな子はいないぞ」


「も、もしや。実の妹とラブラブなのは……まことの事実!?

そんな、禁断の恋を……」


「はっはは。そんなわけが無いではないか。

それは家族愛だぞ。恋愛として対象になるはずがなかろう。

少し落ち着きたまえ」


オレは心底から安堵した。

隣にアイリスがいなくて本当によかったことに。

もし盗み聞きでもしていたら発狂して号泣されるのは目に見えていたから。

どうあれドアの向こう側にいる女の子は振られたらしい。


「う、うわぁぁーーっ!

このシスコン」


バタン!ドアいきおいよく開いてオレは思いきり鼻に激突される。

足がすべって床に座り込むよう横でオレを心配かけることなくフラれた女の子は通過して階段を降りていった。

なんて走行で速さだと振り返ったオレはおののく。


「そこにいるのは……義直か?」


「ああ、そうだよ。

たくっ、なんでオマエだけがこんなにも告られているんだ。そんなにもモテるんだよ。

不公平にもほどがあるだろ!」


大きく開いたドアの向こうから歩いてくるのは

アイリスの実兄である成瀬正成なるせまさなり

空気を含んだような光沢のある黒髪。

それに質肩よりも上にした髪型で清潔感ある。

身長はそれなり高く服からでも鍛えられているのが一目でわかる。

切り立っている目は、信念の強さを印象を与える。


「だな。なんでこんなファッションを無頓着な俺なんだろうなあ。

義直の方がモテようとファッションとか

美容院とか時間やお金をかけているのに」


「やめてくれ。……それ以上はやめて下さい。

惨めになってくるんだ」


「はは。ほんとうに面白い奴だよ義直は。

ほら手を」


「引っ張ってもらわなくていい!

自力で立てる。こんなのイチイチで男気を発揮させるなあよバカ、バァーーカァァ」


「あっはは。これは期限を損ねてしまったかな。

なあ時間があるなら一緒に食事でも取らないか。

そのパンだけ、じゃあ満腹ならないだろ?」


「けっこうです。

カレーパンだけでこと足りるので」


「そうか?

どうせ菓子パンで済ませようとするから弁当を作って来たんだぜぇ。

男子高校生がこれぐらい食べないと持たないぞ」


「チィッ。そこまで言うなら食べるけどよ。

オマエ、なんか現役の高校生らしくないぞ。

男子高校生というのなんとかならないのか?

まるで卒業を美化していく数十年のオジサンみたいな言葉みてェだぞ」


「そんなの考えすぎだろ……いや、そうかもしれないなあ」


さわやかに笑いながら一旦は否定しておきながら途中で撤回して認める。

つい「いや神妙そうに言われても……」応える。

こういう非をすぐ認めるのも女子の心をわしづかみ効果があるのだろう。

このアイリスの兄みたいな真似しようにも気障きざすぎて真似ようが出来ないけど。

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