contact6―異世界から召喚されたら先ず言語で直面するだろうね2―

鐘が告げる。

一日分の教育課程が終わりの先にあるのはアフタースクール。

放課後になると教室には弛緩な空気が流れる。

教諭が出ていくと騒音で辺りが広がる。


「この日を待っていたわ。

さあ義直ここからは付き合ってもらうわよ」


筆記用具を片付けていると奴が来た。

ドップラー効果で近づいくのが分かり誘ってくる。

俊敏な身動きでアイリスはカバンを持つ。

今日も今日とて快活だ。


「断る」


「えぇーっ。なんで!」


「ここから寄らないと行けないところがある。

それに部活があるだろうが」


「本格的に練習して全国を目指すような所じゃないし融通は聞くよ。所詮しょせんは部活だって顧問や先輩がよく言っていたし。

そのうち顔を出すよ」


この幼馴染はラクロス部へ所属していたのは知ってはいるが緩い方針なのは初耳だ。


「帰宅しかない俺が言うのもなんだけど実質それは帰宅部じゃないのか!?

いや、いくら思い出を作りだとしても……それでいいのかよ」


どこの部が人気ランキングになるか。

ダントツ一位は帰宅部。

勝手に大人が、もとい大衆によるものが一括りされたゼット世代の高校生はなるべく時間を有効活用したい。

どこも入らないのは勉強や自分の時間を大切にしたいからだ。

あとゼット世代は9歳から28歳までとなる。

そう該当するらしいが明確な意味は無い。

感覚で使っているだろうけど。

これでは様にならない気がするので少し装飾するなら経済が低迷期に生まれたため景気の良かった時期を知らず、地震や感染など暮らしている。

そのため未来に不安を持っており堅実的になる。


「いいんじゃない。

本格的にやるにも気概のある人そんなにいないし。

学生の本分は勉強って信条を体現しているから。

それよりも手伝ってよ」


「物陰にひそんで助言やサポートしろと」


「そう!お兄ちゃんをデートをさりげなくサポートしてもらいたいのよ。

距離を近づくのに手札は多いほうがいいからね」


手古摺てこずるなぁ。

お膳立てしないといけないのか。

やりたくない」


「そう、そう。支障ないよね……ん?

聞こえなかったかな最後のセリフは。

お兄ちゃんのお手製お弁当を食べて何もしないと」


「それ、オマエが作ったものじゃないだろ!?

恩はアイリスのお兄ちゃんにある」


「でも誰が学校まで持ってきたか。

支障ないよね」


「支障はある。

じゃあ明日またなぁアイリス」


少なくともゼット世代とか知らずに定着してからは何年になるか知らない。

未来は暗いままで不安定だが人間関係は明るい。

この支障ないよね圧力をかけるアイリスだって今を先の未来を見据えている。

きっと明るい。

お金や安定が無くて苦しくても生き方は明るい。

なのでオレはアイリスから振り切って廃墟ビルへと

進んだ。

――静寂な道へと続いている道。

周囲は茜色に染まっていきロボット産業で知られていた衰退した会社へ徒歩で到着した。


「まだ居るかな。居たら挨拶してから……話題が

無いぞ」


なんだか不安を抱えながら中へ足を踏み入れる。

スマホのライトで歩く必要はなく、このままダウンロードしたスマホゲーム興じながら歩く。

向かうのは食堂室。

蛍光灯など証明は尽きている。

明かりは壁が劣化して空いた穴から陽が射し込む。

黄昏たそがれに染まる内部を横目を寄越しながら進むこと数十分。

まだ慣れない廊下に遅くなりながら食堂室に入ると自称ドワーフが今日もいた。


「まさか本当に来たのか人間」


「そりゃあ約束したからねルリアンナさん。

それでお聞きしたい事があるのですが……

どうして鼠色ねずみいろの部屋着を」


「これの事を仰っているのか?

これは魔術師の末裔から受けたまわった物だ」


「あぁー!だからなんですか。

自分で呼んでおいた魔術師が移住職を与えていたのですね」


古代ギリシャ彫刻かくやあらん芸術的な肢体したい

きらめく赤いロングヘア。

白皙はくせきな肌。

Tシャツにショットパンツといったラフなルームウェアとグレー色といった格好でも高貴を感じる。


「いえ、違うのだ人間よ」


「なにを違うのだ?」


「他者を顧みない好奇心で今は危機にいる。

長居ながいはしたくない。近いうちに……帰還する。

必ず帰ってみせる」


郷愁きょうしゅうに駆られてか。

疑問を応えている間に募ってきた想いが尋ねてもいない胸の内まで吐露するルリアンナ。

いきなり呼び出された事は理解はした。

やり残したことや見知らぬ土地を望まずにして渡れば混乱はする。


「いつか帰れますよ。応援しています。

まだ他にも。食事はこれだけですか」


「むぅ?」


「ほら、手にしているコンビニのパンです。

それで腹を満たされるのですか」


「腹を満たされる……うーん?……それは私が飢えないか心配してくれているのか」


「飢えに喘ぐなんてそこまでオレは心配してはいませんが。

この机にはパンの袋しかありませんし、今日の食べものと昨日なにを食べられましたか」


首を傾げられながらルリアンナは訊かれたことは

教えてくれる。

食事は二回だけ。朝と夜の二食。

これで十分と感じるのはルリアンナがいた世界には穀物が取れない日があれば、物価が高騰に、加えて

温存もしないとならない事で無駄にしないのも事情があるらしい。


「もう応えた。まだ帰らないのか?」


「オレのことは厄介者でしょうけど気になるのは他にもあります。

あの魔術師は今日ここに来ましたか?」


「先程に現れたばかりだ」


「先程ですか?すれ違ったのか」


「つい先程、去っていた魔術師は……身勝手だ。

なにかしたい明確な目的はない。

知的好奇心のままだと述べていた」


「ルリアンナさんを召喚したのは知的好奇心か。

それは腹立たしいくなりますね」


「勝手に呼び出されて満足していたのだ!

反省していたが信用はならない」


そのつい先程、ここにオレが来る前でどんな駆け引きをかけて話をしていたのか。

背後を振り返っても現れる様子は無い。


「それで敵意をぶつけた?」


しかしルリアンナは縦には顔を振らなかった。


「でも私は表面上だけ友好的にならざる得ない。

剥き出しにすれば現状は悪化させる。

本音ほんねを漏らすなら参っている」


この元凶である魔術師に頼るしかない。

生きるにしても、食べるにしても、暮らすにしても……そして帰還する方法を知っているのやもしれないと。

それでも決意はあれど気力は消沈しているのが目に見えて窺えられる。


「ルリアンナさん……なんて言えばいいのか」


「フフっ。困らせてしまったか。

貴方は悪い人間ではないようだ。

私の身を心配するか……変わった男だ。

まったくの無関係でこれだけ案じてくれる。

劣情に屈して蹂躙じゅうりんもしないのは。

フフっ。もうそろそろ帰ったほうがいい」


「そんなわけにいかないよ。

ルリアンナさん!せめてオレがやれることは……」


「言葉を詰まらせるなら無理しなくともよい。

気持ちだけ受け取る。

二度とここへ来るのではないぞ人間よ」


否定しようにもここへ来たことはオレがルリアンナと勝手に重ねて見た。

でも明確的に違いはあって、置かれている環境に

手を差し伸ばすこと迷っている。

魔術師の末裔が……怖いというのがある。

けっきょく頷くだけでやっと。

後ろ髪を引かれるまま後にするのだった。

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