contact4―奇しき巡り合わせ4―

ずっと保管したいもの。

それが唯一無二の想い出。

しかし心は揺れる。

影響を受けて変化を望まらずに、訪れて過ぎる。

もたらせた変質に響いていたかつての記憶。

感動や目指していた熱意を過去形にさせる。

それゆえ固有たるこだわりまで失ってしまうのではと恐れる。

一度そうなれば変化させる性質的そのものを嫌う。

避けるようになっていく。

よく言い、よく願われる。変わらないで欲しい。

刻まれた美しいと感じた想いまでも、

瑞々しいものまでもれるなら変わりたくは無い。


「……んぅ?」


「起きるッ!?そ、その勝手に入ったことは謝る。

オレは怪しい者ではありません」


どれだけ見惚れていたか。

女神にも匹敵するまである容貌の優れた少女は、

ゆっくり目を開く。

柱にもたれていた赤い髪は一房ひとふさが肩に掛かっているのを少し揺らして。

今ここで目覚める。


「…………」


「あっ、これはどうも。

こんばんは?でいいのか……コホン。では起きたばかりでありませんね。

おはようございます、かな」


どうしてそこで疑問形で返すんだオレよ。

ほら口を開けてポカンとなっているではないか。


「……………ニィヒャル」


「はい?にいひゃる」


「ドムカライヤ!イィヒャサラ……ダウワ!!」


謎の言語。

異国の人であろうか。

ここで疲れて座り込んで眠っていたと思われる少女はゆっくりと立ち上がる。

柱から少し離れて置いていた剣を手にする。

鞘から抜く。

そして髪に負けないほど鮮やかな深紅の剣。

こちらへ構えを向ける。

あれ、これ本物でしょうか。


「これ、なんてソシャゲ?」


スマホやパソコンなどに遊べるバトルも恋愛パートもあるソーシャルゲームみたいな。

それは現実離れした彩りのある形容けいようだった。


「リニャガルディ!」


腕を後ろに引くと、横へ滑るようにして一閃。

放たれた斬撃。

尋常じゃない風圧がこちらに襲い掛かる。

肌が斬れたような痛みを訴える。

髪も何本か落ちていくのが走馬灯のようにスローモーションとして目に映る。


「う、うわぁーーっ!?なんでだよ…………

ほ、本物だ……これッ……」


その脅威に認識。

高まる危機感。警鐘や心拍数のどちらも高まる。

全身が強張ってしまい身体がうまく動けず。

尻もちをつく。

命の危機だ。


「……フッ」


「だ、だずげで」


赤い少女の目にあるのは敵に向ける絶対的な冷気。

こんな時なのに……こんな事態なのに。

一部が半壊して射し込まれる月にほのかな光で照らされる美しい赤い髪とのコントラストの明暗に目を奪われていた。

踊り子の衣装でありながらも。着ていたのは露出が少なめで気品を感じさせた。


「シアマ」


「……なんて、綺麗なんだ」


彼女そのものが宝石だ。

肌は粉雪だと欺かれるほどの白くて、なだらかな肩、均整の取れた手足。

山なりの胸部にスラリとした体型が曲線を描く。

すずしく心の奥を波打つような佳人。


「ラーク、シアマ!」


「ハッ!?す、すまない。怪しいものじゃない!

敵対するつもりは無い。

すぐに去りたいところですけど腰が抜けてしまって……それで動けないんです」


「ラーク、シアマ!」


なんとなく出ていけ!

なのか理解したけれど。悲しいかな。

言葉が通じずに途方に暮れている気持ちになる。

スマホの通訳アプリでも役に立つか分からない。

いい手立てが無いとなれば会話が困難であると惹き付けるものが必要となりポケットやカバンを探っていると怪しいロープからいただいた飴玉。

これでも舐めて頭を冴えらせるか。

甘いものは頭の回転には良いとよくいうし。


「こうやって威圧的に睨まれてしまうと怖くて動けないのですけど……言葉が通じる訳が無いか」


手を動かしたりして試みるが反応は薄い。


「そうか。なら剣を下ろしてやる。

すぐに立ち去れ」


「こ、言葉が通じたっ!?

いや言語までいきなり日本語に…… なっているのだけどぉぉぉーーッ」


「……こちらも驚いたぞヒューマン。

どういうことだ。

なぜ言葉が、なにか魔法でも使用したのか。

分かるのなら説明をしてもらうぞ」


つい先程まで別世界の言葉であったはずだ。

それが今になって不便なく話せている。


「なんて、ご都合つごうな展開なんだよ」


オレと彼女も目を合わせるだけで困惑を顕にせざるにえないのだった。

なんだって意思疎通の最大な手段である言葉。

それが通じてしまっているのだから。

――さて対談だ。

比喩ひゆなしで話し合いの席に着く。

まずは身の潔白を済ませる。信用してもらうために来た経緯けいいを説明した。


「……それは現地の異変がないか調査なのか。

そうは思いたいが寸止めしても反撃ないことからして察するに。

武装も無いことから所からそうなのだろう」


おとなしく聴取者となった美少女。

名前を知らないため便宜上として賞賛を固有名詞として付ける。

でも説明を聞いていくうちに、ときどき難しいそうな顔したりする。

時偶ときたまに頭を抱えるなどしていたけど。


「あっ、はい。それが昔からの伝統?肝試し楽しみ方ですから。

もし遭遇したらネタにするなり恐怖も楽しもうと考えていました……はい」


「考えられん……私たちの世界では生きるか死ぬかの瀬戸際でいるのが世界でいる」


「そんな大げさな」


「それに飴玉を食べてからと思ったが魔術師の末裔まつえいから貰った物なのか」


「あはは……って、ええぇぇーー!!

いきなり言葉が通じれるようになったのって……

女の子みたい悲鳴を上げていて渋い声をしたロープの男がッ!?」


対座の位置にいる彼女から聞きなれぬ言葉。

オレは今日この日でもしかしたら一番に驚愕きょうがくさせられたかもしれない。

いや、赤い美少女もさることながら驚愕の対象ではあるけれど。

現実で魔術師が存在していた比較にはならない。

あの独歩どっぽした魔術師を去った道を、

つまりは入り口の先に続いている廊下を見ても何も無いのは分かりながらも。

入ってこないか警戒する。


「関係者では無いのは理解した。

それで目的は非日常を体験したくて来た……

この認識で当たっているのかしら」


「あっ、はい!そうです。

それが肝試しですから……はい」


警戒心は解いてくれたのは良かったものの。

目的を話してからは明らかに闖入者ちんにゅうしやから奇行する痛い人に向けるソレだった。

尻が痛くなってきた。

座っているテーブルはこの中ではマシなほうの古びれて足の一部が欠けている。


せないままだが目的を達成したなら後は出ていくといい」


「あのこちらも質問してよろしいですか」


「構わぬヒューマン。

誠実に応えてくれたから私も応える義務はある。

しかし表面上の範囲になるが」


問い掛けることを許してくれたが話せる範囲までと

彼女は付け加えた。

やや背が高くいから。

腕を組むと威風を感じれるけど華奢なため、どうしても可愛さが前方に出ている。


「それじゃあ最初の質問は……。

ヒューマンと種族で呼んでいたのですがもしかして違う種族なのですか?」


「私がヒューマンではない問いなら……ああ、

そうだ。

私はドワーフ。そして神に勝利の祈願や願いを伝えるために舞いを捧げる一族になる」


「ドワーフ……あのドワーフなのか?」


耳は長くはないから天使とか名乗るものだとは予想はしていたが期待はハズレた。

よもや屈強なイメージの強い種族であったとは。

ゲームやアニメなどの創作イメージになるのは武器や防具や道具などを造ることには種族の中では群を抜いて優れていて頑固者。

細かいことは気にせず。

大らかの性質が大半そうなっている。

しかし対面する彼女からはどれも当てはまらないような気がした。


「ずいぶんと驚かれているようだが。

それ程めずらしいのかドワーフは」


「はい。なんだって創作モノですからね。

でも知っている知識と違いがあるといいますか」


「うむ?そうなのか」


「はい。そうなのです」


頑固者だけは少し話を交えただけでは判断は出来ないか。

細かい事を質問するし、手を口元に当てて考えることとか。

そして奇をてらう創作物のドワーフでも、

典型的な思い描いたドワーフと一つだけ一致しては共通する点があるのは、背丈が小さい点だ。

男性だけは大きい設定もあるが個体差とかもある。

そこから根拠にするなら目の前にいるドワーフ、

自称しているとはいえ本人の前で言っては駄目なのだけどドワーフらしくない。


「これで質問は終わりでいいのか?」


「いや、他にも。

お名前をお伺ってもよろしいでしょうか?」


「そうだったなぁ。名を言ってなかったか。

だが名乗らないまま尋ねること……この異世界では常識で無礼にはならないのか」


たぶん怒ってはいないだろうけど。

目を鋭くなりどこか試すような声音だった。


「マジでそうでした!?

オレは尾張義直といいます」


「オワリ・ヨシナオか。

私はルリアンナ・スティーエルネ」


「ルリアンナ……スティーエルネ……」


「スティーエルネの一族は代々から神の前で踊ることを義務付けされており捧げている。

そしてお言葉を伝えたりもする。

恩恵を賜ることも役割とするが……私はまだ姉のようにいかないがこれでも巫覡ふげきだ」


なんだか難しい言葉が出てきたが。

神に仕えて人々に神の言葉を伝えることの職業にしておこう。

彼女……もといルリアンナ・スティーエルネの言からは重要な役職を引き継がれる一族になるわけか。


「おーい、義直!」


遠方から耳に入ってくるのは姫路輝政がオレを叫んで呼ぶ声。

そろそろ夜も深くなっていき帰宅するバスも利用するのが厳しくなってくる。

心配している元友人らを合流しないと。

それにこの場面を見られるのも得策ではないし。


「まずい!あの下にはオレを探している友人がいまして。

ここで合わせると面倒になります。今日はこれで!あの、また来ます。望むものがありましたら明日にまで考えてください」


目撃されればアウトだ。

立ち上がってカバンを手にして出入り口に向かおうとして別れを告げて行く。


「待って欲しい」


「まだ何か」


彼女も立ち上がって緩やかな歩行で近づいていく。

オレの前まで歩んで足を止めると言葉を続ける。

別れようとして引き止めるのは理由はなんだろう。


「私が望むのは一つだけ。ここにはみ込まないことを約束してほしい」


「えっ、ここには来ないでくれっと言うのですか」


のぞんできたのは不干渉。

もう関わるなとドワーフのルリアンナはそう言葉にした。


「ここへ望んで来たのでは無い」


これはオレに向けたものではなく。

おそらく魔術師か理不尽な境遇を与えた神に対して訴えたものだろうか。


「だとしても困っているじゃないですか。

ここへ住み着いていると思うけど、話し合いにならいつでもなりますよ」


「そうか。……情けないがそれに甘んじて受けいれるしか無い。

私が生きるすべは無い……身体で払うことも」


高貴な踊りの衣装である脱ごうとした。

白い肩が覗いたところでオレは手を伸ばしてそれ以上の行為を止める。


「あ、ああ……分かりましたから。

いや、全然どういうことか分かりませんよ。

とりあえず自分を大切にして!」


「そう、だな」


毅然とした振る舞いがどこへやら。

あの強気でいた表情は今やかげりゆくように染まっていき彼女に掛ける言葉が見つからない。

もう何日、いや何年になるのか。

ここへ住み着いていてから。

どうやって生活したのかは存じない。

糊口ここうしのぐのも困難なほど境遇にあるのか。


「また明日には来ます。それじゃあ」


「待ってくれ。見苦しいところをみせた。

それと引っかかりさせようと駆け引きしたこと謝らせてもらいたい。

すまなかった」


「はぁ!?駆け引きあったのですか……。

うん。まあ別に悪いこと無かったですし。

いいですよ。ではまた明日」


最後には謝られたことにオレは戸惑いながらも快活に応える。

これで元気付けるとは思えないが。

あの美しいルリアンナも精神的に病むほど苦しんでいたのだろう。

でも性交渉をうまく運べたのでは?下心な後悔はあったけれど、その悔やみは明日には消える。

ドワーフと名乗るルリアンナ・スティーエルネ、

どこかデジャブを感じた。

それを感じ取れるのは。


(満足だけが成果に残る。

変わるのは簡単にはいかない結論に至った諦念)


まるで諦めて何がなんでも助けを求めた急な行動。もし関わらないとなれば、いずれあの闇は膨大ぼうだいしていくのを感じた。


(目標へと向けて……。変わることの現実と理想に違いが苛まれて苦しませる。

目標へ向けて励むことの恐怖)


あの頼みは勇気とは違う。

理想を手にするための目標を立てずにいる流れに身を置くだけでいる。

いずれくる時流や運命の出来事をただ流されるまま求めるしか知らない者。


(変わることに対して。

環境が目まぐるしく変わる未知の色に染まることの恐怖。けどそれに染まらないよう自己を変化を拒みながらも受け入れている)


無自覚にその抱える問題を立ち向かおうとせず。

生活の循環として受け入れていく。

明日を迎えようとする準備を進める。

それは呪いの指環ゆびわをいつまでも付けたまま手放すことを選択に捨てた考え。


(なによりも似すぎている……誰か”さん”と。

自分を証明する固有たるこだわり!

それを大切して拒まない自分がいる)


まるでオレのようだった。

変わることに極度に恐れた現状にいる。

望んでいる矛盾のかたまりがルリアンナとオレはあまりにも重ねて見えてならないのだ。

酷似こくじしたものと向き合うのは苦手だ。

いや自己嫌悪というべきか。

ともあれオレはそれを確認したく明日にも会おうと決めた。

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