第6話 俺の名前とトラウマ体験
俺は急いでPCを再起動し先ほどのメールをまず確認しようとメーラーを立ち上げる。
「ない……か。まぁ、そんな気はしてたわ」
となれば昨日同様、ブラウザの閲覧から再表示を試みる。
けど当然のごとく……、
【404 Not Found】
うん、知ってた。
「もう、なんなんだよコレ。こんなこと現実にあっていいのかよ!」
こんなこと、どこの誰に出来るってんだよ。まじ神様でも居ない限り無理だろ?
そんな疑問が当然
俺はふと思い立ってショルダーバッグから免許証を取り出した。もちろん、『LV2特典』ってやつが気になったからだ。
朝見た時は間違いなく男の時の俺の写真で、名前も
免許証を見る。
│氏名│ 川瀬 佑奈 │
……ははっ、笑っちまう。
キッチリ、確実に変わってる。
だいたい、川瀬
佑士だったから佑奈ってか?
はっ、安直な改変だこと。
ご丁寧に証明写真も今の俺の姿。ピンクブロンドの髪をした女の子の姿に差し変わってる。これいつ撮ったんだよ!
しかもどう見ても成人してるように見えん。他人が見たらさぞ戸惑うだろな。
これ、考えようによっちゃ、めちゃ恐いな。
行政発行の運転免許証だぞ。しかもICカードになってるわけだし、内容の改ざんなんて普通は絶対無理だし、やったら犯罪行為だ。見る限りおかしなところもなさそうだ。で、写真をよく見れば今着てる服で写ってるし。妹が選んだなんともガーリーでふんわりした服。パステルカラーが目にしみるわ。
ともかく。
これ、普通に使って大丈夫なんだよな?
……ま、余計な心配か。
男を女にするとか、理解不能なことをやってのける謎存在。心配するだけ無駄ってもんだ。
「お姉ちゃ~ん、お風呂空いたよ~」
おっと、妹が出てきた。まだちょっと把握しきれてないけど……、追々確認してくしかないか。昨日のレベルアップの内容も覚えてる限りメモっとかないと忘れそうだ。
けど、とりあえず風呂だ。
朝一のアレでまぁ体の一部の把握はしっかりできてるけど……、今度は全身じっくり確認しよう、そうしよう。
あと澪奈。下着姿でウロチョロすんな。目のやり場に困るわ!
つってもまぁ、遠慮なしに拝ませてもらうがな。
高二ともなればそこそこお育ちですこと。
ま、胸は俺より小さいがな!
***
「お姉ちゃ~ん、お、き、ろ~!」
「んぐぇ、んぐぁ~」
な、なんだぁ?
「ちょ、
気持ちよく寝てたら思いっきり、肩らへんをガクガク揺すられたでござる~。
「起きるならやめる。もう五時だよ! 急がないと開園待ちの行列がヤバくなるから。ほら、起きて起きて!」
え、ご、五時?
ごじぃ~?
「なにそれ! まだめちゃ早いじゃん。寝てていいだろが~」
昨日の夜は色々あってなかなか寝付けなかったんだ。まだ眠い~!
「ダメダメ。今言ったでしょ。待ちの行列半端ないんだから、ちょっとでも早めに行っとかないと。お姉ちゃんだって長~い行列の後ろに並ぶの嫌でしょ?」
「うう、そりゃ並ぶのは嫌だけど……、起きるのもい……」
「ああもうっ、つべこべ言わない! ほら、おきろ~」
結局布団から引きずり出され、妹に色々指図されながら朝の準備をする羽目になったのだった。
***
「なぁ
「もち、付けなきゃダ~メ。可愛いは正義。お姉ちゃんにウサ耳だよ!」
なんだそりゃ? わけわからんわ。
ディズキューのマスコットキャラ、『ディッキーラビット』。そのキャラの耳をイメージしたカチューシャっていうの?
それを頭に付けろと妹がうるさい。
かく言う妹もそれを頭に付けている。ただ、見た目は多少違う。俺のは白ベースのふわふわ起毛で、耳の中はパステルピンク。しかもぺったんたれ耳である。妹のは白地は一緒で耳の中はパステルブルー。耳はピコンとおっ立っているバージョン。
はい、うさ耳カチューシャ装着しました。
鏡を突き付けてきてその姿を見せつけられた。
俺、なんかあざと可愛い。
めちゃ似合ってる。これで二十三歳なんだぜ。
ただ、これで俺たちが悪目立ちしてるってわけでもない。
なにしろ周囲を見回せばそこら中に同じようなのを付けている女子いるし、なんならもうコスプレみたいなかっこしてる奴らすらいる。ついでに言えば、男でも付けるやつがいる。それなりにいる。
よ~やるわ。
そもそも、着てる服も俺と妹はお揃いコーデになってて、違いは色合いのみ。要は耳と一緒のパターンだ。澪奈め、端からこれをする狙いだったみたいで昨日の買い物でチャッカリ買い込んであった。
一見すると学校のブレザーっぽいデザイン。ただ、色合いは制服ではありえない、うさ耳同様のパステルカラー基調である。
白が
いや、スカートがちょっと短いんだが?
二十三歳の中身男がしていいカッコじゃないんだが?
これで電車とバス乗り継いできたんだが?
電車じゃ色々注目浴びてずっと妹に隠れるようにへばりついていたんだが?
最寄駅からの直行バスは楽で良かった。周りがみんな似たような感じだったから埋没できた。
俺、もう恐いものなくなった気がするけど、それはやっぱ気のせいなんだろうな。
「さ、お姉ちゃん、入園始まったよ! 今日は一日楽しもうねー!」
ま、妹が楽しそうにしてるんだから我慢しよう。
滅多に会えないんだ、たまには妹孝行してやるさ。
……昨日もしたけどな。
***
「むりむりむりむりむり、やっぱやめる~」
「ちょっとお姉ちゃん、ここまで来てそれはないっしょ! ほら、後もつかえてるんだから!」
なんで子供に夢をまき散らすはずの国に絶叫系の乗り物とかあんだよ? ほわほわ癒し系がありゃいいだろ!
俺は絶叫系は大の苦手なんだ。
昔、小学校の遠足で遊園地に行ったとき、よくわからないまま乗って、結果、キラキラしたものを放出して以来トラウマものだ。
ディズキューに全く興味がなかった俺は、まさかここに絶叫系アトラクションがあるとは思ってなく、今更ながら
「怖いのやだ~。さっきも悲鳴とか絶叫とかすごかったよね? これ、ヤバいって。
澪奈一人で乗ってきたらいいよ。おりぇはここで見てる!」
「一人で乗るだなんて無いし、あんなのほとんどノリで叫んでるだけだから。恐くない、怖くないよ~。ほらっ、さっさと乗る」
周りの人が生暖かい目で見てきてツライ。ああ、なにこのごっついバー! 落ちないように? やっぱこれ危険なんじゃ?
そんな俺の気持ちをあざ笑うかのように発車準備が整い、カタカタと脅すような音と微振動を伴いながら動き出した。隣の妹はとてもよい笑顔だ。信じられん。
頂点にたどり着き一瞬の停滞のあと、あの最悪な浮遊感を感じて以降、俺の意識はプツリと途切れ、記憶も定かではない。
――その後、涙目の俺は妹に連れられ女子トイレの住人になったとだけ言っておこう。
理由?
聞かないで。
お願い!
俺の半端ない落ち込み具合に流石に反省したのか、妹がしきりに俺に謝ってくれた。今回はアレだったが基本いい子なのである。
俺はお姉ちゃんだからな、妹にそこまでさせるのは本意ではない。
人の多さには閉口したし、そのせいでアトラクションを満喫出来たとはとても言えなかったし、ごはん食べるのすら大変だったし、やたらめったら人に見られたし。
それでも総じてみれば楽しかった。ここでも妹の買い物に付き合わされたのには苦笑いするしかなかったけど。
暗くなってからのパレードも色とりどりのイルミネーションがめちゃ綺麗で、とどめの花火とか最高にクールだった。
けど、それはそれ。
俺はもう二度と絶叫系には乗らないと心に刻み込んだし、ディズキューには当分行きたくない。
妹よ、また行きたいのであれば今度は友達とか、彼氏と行きたまえ。
あ、まって、彼氏はダメだ。
俺の目が
「お姉ちゃん、また行こうね!」
「え、あぁ、……うん」
妹にはやっぱ弱い。
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