第7話 実家に帰ろう

 改変で色々大変な目にあってるが、まだやらなければならない一番大事なことが残ってる。


「お姉ちゃん、ほんとに一緒に帰るの? 珍しいね。でもうれしい」


「あはは、ま、まぁね。たまには帰って親孝行でもしようかと」


 そう、妹が帰るのに合わせて俺も帰ることにした。

 なぜなら……。


「ママやパパもきっと喜ぶよ! お姉ちゃん、全然帰ってこないっていつもママなげいてたもん」


 このまま妹だけ帰らせたら色々まずすぎる。


 妹は俺と会って改変オルターにより、俺のことを女と認識してる。そんな妹を家に帰せば向こうで何が起こるかなんて火を見るより明らかだ。間違いなくおかしなことになる。母さんや父さんは当然俺を男と思って話をするのに、妹からすれば俺はもうお姉ちゃんだ。


 LV2特典ってやつで名前の改変はされて、あの時のPC画面で見たメッセージを信じるなら俺の名前は世界レベルで佑奈ゆうな改変オルタードされてるはずだけど、それはあくまで名前のみのはず。俺自身への認識はまだ男のままなのだ。


 だから俺は両親に直接会う必要があるんだ。

 妹より先に!


 でないと妹が頭のおかしい子扱いされてしまう。まぁ、家族なんだし後からの改変でも、「澪奈が変なこと言ってたね」くらいの笑い話には出来るだろうけど……。


 そんな事態はなるべく避けたい。

 

 あのwebサイト見て以降、俺の引きこもり社会人生活は破綻しまくりだ。なんで俺がこんな面倒なことする羽目になるんだ。


 もう勘弁してほしいわ。




***



 実家への帰途につくため二時間近くを新幹線で過ごし、在来線に乗り換え、ようやく地元の駅までたどり着いた俺と妹。

 道中、妹のトークは終始冴えまくった。ぜんぜんゆっくりできず、ゲームもさせてもらえなかった。


 現役JK半端ないわ。


「ママ車で迎えに来てくれるって~。今の時間だと三十分くらいはかかりそうだってさ」


「ふ~ん。で、なんか言ってた?」


「お姉ちゃんと一緒って送ったら、つまらない冗談やめろってプンプン絵のスタンプ返してきた。私なにも冗談とか言ってないのにママひどい~」


「あはは……、まぁなんか勘違いでもしたんじゃない?」


 澪奈がLINIEリニエで母さんに連絡したみたいで、いきなりヒヤヒヤもんだったけど、まだ笑ってすませるレベルだな。


 とりあえず三十分待ちってことで俺たちは駅に併設されてるショッピングモールで時間をつぶすことになった。

 母さんが迎えに来た時、妹が変なこと言いだす前に改変を済ませたい。ちゃっちゃと先に俺が乗り込もう。息子ゆうじじゃない、ピンクブロンドの頭した見知らぬ女の子が乗ってきたら母さん驚くだろうな。兄妹きょうだいで帰ってくるって聞いてるんだからなぁ。


 驚く間もないくらい速攻で改変しちまおう、うん。


 なんて考えながら適当に100均とかぶらついてたら三十分とかすぐだ。


「あ、ママから連絡きた! 着いたって。駅前ロータリーで待ってるって」


「そっか、じゃ待たせたら悪いから早く行こ。母さんの車ってアウディの黄色いハッチバックのままだよな?」


「うん、そうだけど、お姉ちゃんまた言葉遣いが男っぽい! ママの前でそんな言葉遣いしたらダメだからね」


 妹が口うるさい。


「わかったわかった、ほら行くぞ!」


「あ、また~。もう、待ってよお姉ちゃん」


 俺は妹を置いていく勢いでロータリーに向け歩き出した。……けど、一瞬で妹に追い付かれ、すぐ並んで歩くことになった。


 ちっ、如何いかんともしがたいリーチの差。

 俺が妹よりチビになっただなんて未だ納得できんわ。俺はつい足の回転を早める。


「もうお姉ちゃん、そんなに急がなくても。あんまり慌てるところんじゃうよ? お姉ちゃんそんなにママ大好きっ子だったっけ?」 


「んなことあるか! 待たせたらまずいって思っただけだし」


「ふ~ん。ま、そう言うことにしといてあげる。……あと、言葉遣い~」



 そんなどうでもいい会話をしながら母さんの待つ駅前ロータリーに到着した。母さんの黄色のアウディはとても目立つ。すぐそれを確認した俺はすかさず行動に移る。


「これ、よろしくね!」


「ふぇ? あっ、ちょっと!」


 背負ってたリュックをいきなりボスンと妹に預け、文句を聞き流しさっさと車に近寄り助手席のドアを開け、車の中に滑り込んだ。


「お帰りなさ……、え? その、誰、かしら? 澪奈みいなの友だ……」


 ドアを開けて入ってきた俺の姿を見て、笑顔から一転戸惑った様子を見せる母さん。相変わらずの若々しい姿はとても二人の子供が居るようには見えない。妹と並んで立てば歳の離れた姉妹って思われてもおかしくないくらいだ。


「ただいま母さん。佑奈ゆうなだよ? 忘れちゃった?」


 俺は、戸惑ってる母さんの言葉に被せるように白々しくそう言って、じっとその目を見つめた。


「ゆう……な? ゆう……」


 澪奈の時と同様、母さんの目がうつろになり、どこにも焦点を結んでいない状態に陥ってる。上手くいってるみたいだけど、後ろのハッチドアが勢いよく締められる音がした。澪奈のやつ、ちょっと不機嫌そうだ。


 そりゃそうか。荷物無理やり押し付けたからな。


 もう中に入ってくる。母さんの反応が戻ってくるまでなんとか誤魔化そう。


「あ~もう、お姉ちゃんサイテー! なに澪奈に荷物押し付けて自分はママとお話してんの~」


 入ってきて早々愚痴りだした。興奮してるのか自分のこと『澪奈』呼びしてる。子供っぽいからって『私』って言うようになってたのにな。ま、どうでもいいが。


「あは、ゴメンって。早く母さんの顔が見たくってつい。澪奈の邪魔が入る前に挨拶してたんだよね」


「え~、邪魔ってひどい~。みぃ、私だって空気よめるし。そんな邪魔なんてしないんだから」


 うむうむ、そうだろうそうだろう。すまなかったな妹よ。文句言って多少は落ち着いたか。母さんの方はどうか……、


「澪奈、そんなに大きな声で話さない。それに前まで乗り出してこないの。高二にもなってお行儀悪い」


 おっ、会話に入ってきた。ど、どうだ?


「ゆ、ゆう……、佑奈ゆうなもおかえりなさい。あなた、もっと頻繁に帰ってきなさいよ。お父さんが寂しがって面倒なんだから」


 よっしゃ~!


 無事改変完了。これでひとまず安心だ。


「ママ聞いてよ、お姉ちゃんひどいんだから。マンションでも男みたいな……」


「あっ、あ~、もう澪奈。そんなの今はいいだろ! ほ、ほら、早く出なきゃ。いつまでもここに車止めてちゃ迷惑だろ、早く出よ、ね、母さん!」


 この告げ口妹め。余計なこと言わんでいいわ。


「ほら今も~。お姉ちゃん一人暮らしで男みたいになった!」


「はいはい。いつも仲良しで結構。お話は家に帰ったらゆっくり聞かせてね。じゃあ、行こう」


 まだぶ~たれてる妹をよそに、母さんは車を出した。

 今からこれじゃ先が思いやられるわ。


 まだ父さんの改変も残ってる。家の様子のこともあるし、チャッチャとやることやってしまいたいものだ。


 たまの帰省なんだし、やることやったらさっさとゆっくりしよう、うん。

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