第4話 俺(現姉)が妹より妹してる件
妹にせかされ出かける準備するのはいいけど、当然ながら女物の服なんてあるわけない。
「いいじゃんこれで」
デニムパンツに白無地Tシャツ。アウターとしてチェック柄のシャツを羽織る。GW真っただ中のこの季節。それで十分だと思う。ただし、体が少しばかり小さくなった関係で色々だぶついて、彼シャツ状態になってて泣ける。
「う~ん、良くないけど、良くないけど……、仕方ないか。でも、なんでサイズ合わない服ばっかなの? それに女物の服、ほんとに何もない。信じらんないことにパンツやブラすらない。お姉ちゃん、これ女としてどうなの」
ジャージから着替えた俺の姿を見ながら、妹が呆れ声でそう言った。
すまん。でも仕方ないだろ。そもそも俺、男……だったんだから。逆にある方がおかしい。俺は変態でも、女装癖があったわけでもない。
「お姉ちゃん、あのさ。いくら外に出ないからって、その胸でブラ無しは絶対ない。今までどうしてたのか聞くのが怖い。呆れちゃう。でもおかしいなぁ、
あ、この話は続けないほうがよさそう。
「わ、わかった。わかったから、もういいじゃん、勘弁して。これからはちゃんとする。いえ、します! だから、ね、ね?」
強引に話をぶったぎる。
「もう……、ブラ買うまで絶対上着脱いじゃだめだからね! お姉ちゃんが無防備すぎて怖い。ほんとにちゃんとしてね!」
「うんうんうんうん!」
ひたすら下手に出るしかないない。
妹の言うことももっともだから反論も出来ない。こうなったのは不可抗力だから理不尽さも感じるが、それを妹に言うのも違うし。
「あとは……、出かけるんだからメイクもしないと……なんだけど、コスメの
妹の追及が止まらない。そんなこと言われたって……。男の俺が化粧品持ってるはずもなし。今の仕事は家で出来るからほぼ引きこもりだし。
だからこう言ってやった。
「そんなものはない。使ったこともない。あるわけない」
「うっそ。お姉ちゃん、その年でメイクしたことないとか、マジ? うわぁ……、ママが聞いたらきっと呆れるよ?」
いや、母さんはまだ俺のことを男と認識してるはず。だから呆れられることなんてない。
たぶん。今のところは。
「そ、そんなに驚くことかな? 別におりぇ……私、何も困ってないし、必要もないんだけど」
ち、やっぱ俺って言えない。ちくしょうめ。
「だめだめだめ。絶対ダメ。それに今日、お天気もいいし日焼けだってしちゃうよ? そんな真っ白なお肌なのにすっぴんで出掛けるなんてヤバイでしょ。あ~、もう、仕方ない。今日は私のを貸してあげるから、それでメイクしよ。プチプラだけど私のお気に入りなんだから。感謝してよね」
ええっ、普通にいやなんだけど……。
でもそれを言ったら
しゃーない、俺は兄貴だ。妹の我が儘くらい寛容な心でもって我慢しよう。
***
「よし、とりあえずこれくらいかな。お姉ちゃん元がいいからナチュラルメイク程度でも十分だよね。マジこわいくらい肌綺麗で悔しい。高二の私よりぷにぷにモチモチなんですけどっ? お姉ちゃん見て二十歳越えてるだなんて誰も思わないし、言っても信じないよ、きっと」
そう言いながら俺を姿見の前に引っ張り出し、自分も横に立つ妹。肩に触れるくらいのふわりとした癖のない綺麗な黒髪。服装はディズキューに行くのを意識してか、動きやすそうなショートパンツに薄手のカットソー。デニムジャケットを羽織ってきてたけど、今は脱いでて、背負って来てたリュックにしまい込んでた。
服装はともかく、前会った時は妹の身長は俺より少しとはいえ低くて、なんとか兄貴の尊厳を保てていたわけだが。
「…………」
やばい、俺の方が小さい。
俺そこまで背縮んじまったの?
「あ~んもう、ほんとかわいい。これ、どう見てもお姉ちゃんのほうが妹だよね!」
「う、うるさい。ほっとけ!」
「お姉ちゃん、言葉遣いが乱暴。外でそんなしゃべり方しないでよ? それにしてもお姉ちゃんってこんな髪の色してたっけ? それに目の色も青緑っぽくて外国の人みたい」
う~ん、
「いや、えっと、こんなだった……よ、前から。うん。生まれつき……みたいな?」
俺は適当に誤魔化しながら妹を見つめる。
「え、あ、ああ。そっか、そう……だったっけ? でもいいなぁ、ピンクブロンドに、その目の色って
「そ、そうか? ま、まぁいいじゃないか。
うん、なんとか大丈夫みたいだ。それにしても、アニメや漫画ならともかく、こんな髪色、現実で出歩いたら目立って仕方ないだろ。俺は黒髪のが絶対いいわ。
そんなやり取りをしつつも、俺は妹に引っ張り出され、泣く泣く外に出ることになってしまった。
こんな女の子の姿で外に出るだなんて、どんなバツゲームなんだ?
泣きたい。
***
「まさか靴までサイズ合ってないとか思わなかった。お姉ちゃん、なんでこんな靴買ってるの? サイズ確認しないの? あ! もしかして彼氏の靴? お姉ちゃん、興味ないふりして実は彼氏いたりするんだ? やだ~」
は?
こいつ何言ってるの?
「ないないないない。そんなの絶対ないから! 死んでもお断りだから!」
男と付き合うだなんて勘弁してくれ。彼女もいたことないのに、彼氏だとか……、断固拒否だ。
「ふふ~ん、まぁそうか。お姉ちゃんだもんね。……にしたって、買い物しなきゃいけないものがどんどん増えちゃうなぁ。よ~し、今日はいっぱいお店まわろうね、お姉ちゃん! とりあえず靴はサンダル履きで誤魔化したし、まずはパンツとブラ。それが最優先。そのあと靴、それから服。そんな感じで行こう! 可愛いの買いまくろう!」
はいはい、仰せのままに。
俺は妹に腕を組まれ、引きずられるようにしてマンションを出て、最寄りの駅に向かう。車もあるけど街に出るならかえって不便だし、ちょっと今の体で運転していいのか悩む。そもそも免許、どうなるんだろ?
ショルダーバッグに入れてある免許証をちらっと見てみる。
普通に男の俺の名前に顔写真。
そう言えば俺の名前!
女の子の姿で
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