第3話 改変『オルター』

「お姉ちゃん、急に頭に手を当てて辛そうな顔してたけど、大丈夫?」


「え? ああ、うん、大丈夫。ちょっと頭痛がしただけ。もう治まったから」


 うん、もう治まった。大丈夫だ。だけど俺の受けた精神的ショックはそう簡単には癒されない。


 改変、オルター……ね。


 きっかけはあのwebサイトを見たことで間違いないと思うけど……、それだけでどうしてこんなことになるのか? それについては俺の足りないおつむでは全く理解出来そうにない。それでも俺がアレのせいでオルタード改変されて今の姿になったっていうことだけははっきり分かった。っていうか、こんな姿に変わって、どこか体に悪影響出たりなんかしないんだろうな?


 今のところ体調に不具合でるとかないけどさ……。


 そんでもって妹が今、こうなったのだってどう考えても改変オルターのせいなんだろうけど。なんで俺にそんなこと出来るんだ? 俺にその力が宿ったってこと? 変えられただけでなく?


 マジ意味わからん。


「もう、お姉ちゃん、話し聞いてる? またぼーっとしちゃって。ほんとに大丈夫? お医者さんに行ったほうがよくない? 連れて行こうか?」


「いや、何それ、子供じゃないし。ほんとに大丈夫だから。それより澪奈みいな、朝ごはん食べた? まだならお小遣いあげるから外で食べてきたら?」


 ちょっと考える時間がほしい。ぜひ一度どっかへ行ってくれたまえ、妹よ。


「もう新幹線の中で食べたし、朝ごはんって時間でもないし。お小遣いだってママからちゃんともらってるし、今日のために貯金もちょっとおろしたし。そんなことより、お姉ちゃん。どうしてこうもお姉ちゃんの部屋は雑多で黒っぽくて根暗な感じなの? なんでこんなにTVの画面がいっぱいあるの? まるで男の人の部屋みたい。こんなの可愛らしいお姉ちゃんにぜんっぜん合ってない」


 ぐぬ、か、可愛らしい……。お、俺が。

 いや、確かに俺が可愛くなったって自覚はあるけど。


 妹にそう言われるとなんか、こたえるものがある。


 それはともかく、妹はまるで元からそうだったみたいに、俺のことを『お姉ちゃん』と呼ぶ。


 なんの違和感も感じないのかよ?

 ほんのついさっきまで兄貴って呼んでたのに……。


 なんか寂しい。


 そうなってしまったのは俺と妹が目を合わせてからだ。放心状態になった妹の意識が戻った時にはすでにこうなっていた。


 俺の都合のいいように妹の意識が改変オルタードされていた。


「いや、澪奈。それ仕事道具も兼ねてるから。そこに可愛さ必要ないから」


「むぅ~。まぁそれは百歩ゆずって。その恰好は何ですか、お姉ちゃん! 


それに、なんでこんなに男物の服ばかり!」


 行動力の塊の妹は、洋室とこの部屋を行き来しクローゼットの中まで漁り出してる。なに勝手に開けて見てるんだよ!


 それにしても、出ていってくれそうもないし、これはもう諦めて妹に付き合うしかないのか。なんか次々突っ込みも入ってくるし。

 ま、そもそもディズキューに行く予定だったんだし。でも、俺、この姿で出かけなきゃいけないのか?


「え~、いや、まぁ、女の子の服なんてもってないし、部屋ではジャージが一番過ごしやすいし……」


 そう言いながら俺は妹と目を合わせる。さっき頭痛と共に漠然と入ってきたオルターの概念。それにしたがって俺は妹の目をそのままじーっと見つめる。


「やっぱ、ダメか……」


「え、何? 何がダメなの? っていうかいくらお姉ちゃんでもそんなに見つめられたら恥ずかしいから」


 そう言いながら顔の前に手のひらを広げ顔を隠すようにする妹。そんな仕草も可愛い。さすが俺の妹だ。けどやっぱ、妹に再び俺を兄と認識させ直すことは出来なかった。


 不可逆。


 やっぱ、オルター改変は不可逆。

 オルタネイト交互には出来ないみたいだ。


「やっぱお姉ちゃんを一人暮らしなんかさせちゃダメだった。信じらんない。パンツまで男物だなんて。これはちょっとほんとにまずい。ママにも報告しなきゃいけないレベル」


 え、いや、そりゃ昨日まで男だったんだから服も男物に決まってるよな。つうかママに報告って……、今それをされるとまずいんじゃないか?

 妹の俺への認識は『お姉ちゃん』なんだろうけど、母さんや父さん、っていうか妹以外には俺はまだ佑士ゆうじのままのはず。


 とは言うものの今はどうしようもないし。その辺は後回し。今は妹の相手をしなきゃな。


「いや、そんな大げさな。別にが何着てたっていいじゃんか?」


 なに着ようが俺の勝手でしょ?

 誰の指図も受けないぞ、俺は。


「お、お姉ちゃん……。い、今、何て言ったの?」


「え、いや、何着てたっていいじゃんかって」


「違う、その前! 俺って、俺って言った! やだ、お姉ちゃんが都会生活で不良になった~!」


 いや、どうしてそうなる? 俺って言っただけで不良って。短絡的過ぎだろ。どんない子ちゃんだっつうの。……でもまぁそうか、こいつ俺には悪ぶった口利いてるけど、結局は甘やかされて育ったええとこのお嬢様気質なんだよなぁ。


「あ~、あ~、ごめんごめん。私ね、私。気を付けるからさ。ね、落ち着こうね」


 そう言いながら椅子から立ち上がり、妹の頭を撫でる。いや、撫でようとした。


 伸ばした手を途中で止めてしまうほどにはショックを受けた。

 妹のがでかかった。


 泣ける。


 そんな傷心の俺の様子を気にかける風もなく妹は言う。


「も~、お姉ちゃん。外でもそんなしゃべり方してないでしょうね? 絶対ダメだからね? ママにいいつけるからね!」


 あ~、メンドクサイ。

 さすがに言葉使いまでは改変されなかったからな。これから苦労しそう。


 絶対俺って言ってしまう未来が見える。

 いっそ、それも改変されてたら楽だったのかもなぁ。


 なんて考えたのがいけなかったのかもしれない。


「わかってるって。もう、お、お、お、おおっ、おりゅぇ? おりゅえぇ~! ええーっ?」


「どしたのお姉ちゃん? 変な声あげちゃって」


 ええ!


 マジかよ。俺って言えないんですけどっ!


 うっそ~。

 まさかこれもオルター《改変》のせい?


 こっわ。


 下手なこと考えたらとんでもないことになるんじゃね、これ。それより、不可逆なんだから俺もう二度と自分のこと俺っていえないじゃないの?


「うう……、なんでもない……」


 なんか予想外にショックでかい。

 ああ、俺の男の尊厳がドンドン無くなっていく……。


「よ~し、もうこうなったら仕方ない。今日はディズキュー行きはやめにしてショッピングに行く! このままだとお姉ちゃんがダメダメになってしまう。だから、私が見つくろう。うん、それはそれで楽しそうだし。そうと決まれば早く出かけよう。ねっ、お姉ちゃん?」



 ええぇ……。



 なんかもう、俺のMND精神力はゼロです。


 好きにして!

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