第2話 妹と兄? からの改変!

「おっじゃま~、ってあれ? 兄貴の靴あるじゃん!」


 あいつめ、速攻入ってきやがった。


「なんなの、もう。兄貴ぃ、いるんなら出てよね、まったく。部屋にいるの~?」


 マジ遠慮なしで笑うわ。

 どうしたらいいんだよ、これ。


「あぁ、ノド乾いたし、飲み物もらうね~」


 そんな言葉と共に冷蔵庫を開ける音が聞こえてきて、キッチンでガサゴソやってるみたいで好き放題だ。ま、いいんだけどさ。


「いいよねー兄貴は。都会のマンションで一人暮らしでさ。私も早くこっち来て住みた~い」


 妹は十七歳になったばかりのJKだけど、卒業したらこっちに出て来る気満々。しかも俺が住んでるこのマンションに潜り込む気でいる。ちなみにここは2SLDKで、それぞれの部屋のサイズも結構余裕のあるそこそこお高いマンションで、セキュリティとかもしっかりしている優良物件だ。俺の不安定な収入じゃ危なっかしくて住めない、もろ親のすねかじり住居な訳だけど、親も妹がそう言いだすことを見越してこのマンションにしたんだろうから遠慮なんてしない。


「ちょっと兄貴、聞いてる? 返事くらいしてよ。感じ悪いなぁ、もう」


 出来ればしてるわ!

 今、俺が声だせば一発でおかしいのがばれる。


 さっきちょっと声出してみたら、女の子らしい高い声だけど、それが全然耳障りじゃなく、我ながらなんて癒し系の声だろって思えるような……、どうあがいても男が出せない可愛らしい声だった。


「兄貴、いるんでしょ? 入るよ~!」


「ひぃっ」


 なんの遠慮も無しに部屋のドアを一気に開け放って入ってきた妹。


「あれ、いない? ってことは~」


 妹が突入したのはベッドやクローゼットとかある洋室側。俺は趣味部屋にしてるサービスルームに居るからまだ見つかっていない。セーフ。


 って、んな訳あるか。ピンチは続いたままだ。


「あ~に~き~。かくれんぼじゃないんだからさぁ……。ディズキューに一緒に行くのが面倒なのはわかるけど、約束したんだから観念してよね!」


 そう言いながら俺の聖域、趣味部屋についに突入してきた。


「ひぃ」


 俺は往生際悪く、PCデスク上で腕を組み、その中に顔をうずめた。


「兄貴みーっけ。それにしてもなんて声出すのさ、気持ち悪い。相変わらずPCにへばりついてアニメとか美少女イラストだっけ? そんなの見てたんでしょ? あ、まだジャージ着てるじゃん! も~、出かけるんだからちゃんと着替えておいてよね!」


 妹がマシンガンのごとく矢継ぎ早に俺に言葉の雨をまき散らしてくる。くぅ、最早ここまでか。けど、妹は俺の今の姿を見て兄の佑士ゆうじだってわかってくれるのか?


 いや、そんなの絶対わからないよな。

 俺がもし初見でこの姿を見たとしても絶対わからんって自信ある。


「兄貴、ちょっといい加減にして。顔上げてこっち見て。っていうか兄貴、髪染めた? そんな長かったっけ? ピンクブロンドって……、もしかしてウィッグ? ちょっとキモいんですけど」


 くっそ、黙ってれば兄に向ってあんまりな口ききやがって。


 も、もういい!

 どうとでもなれ!

 俺が兄貴だ文句あっか?


 俺は観念して頭を上げ、思い切って妹のほうに顔を向けた。


 がっつり妹と目が合った。


「えっ?」


 俺と目が合った妹はよほどビックリしたのか、一声上げて黒く澄んだ瞳を大きく見開いたまま硬直してる。そ、そこまで驚くとか……、なんかちょっとショックだ。


「よ、よう、澪奈みいな。ひ、久しぶり。元気してた?」


 未だ目を見開き、口をぽかんと開けたまま固まってる妹にそう声をかけた。そんな顔でも我が妹はとても可愛いらしい。あの小うるさい口さえかなければ。


 しかし、話しかけても反応がない。え~、そこまでリアクションないとちょっと俺、どうしたらいいのか……。


「み、みいな~? だいじょぶ? 正気に戻って?」


 可愛らしくなってしまった手を妹の顔の前でフリフリしてみるも、反応は返ってこない。ま、マジどうしたん?

 顔をのぞきこんでその目を見つめてみても、どこかうつろでどこにも焦点を結んでないように見える。


「どうなってんの、これ? 驚きすぎて意識飛んじゃった? そんなことある? つうか、そこまでのもんなの、俺を見たのって」


 もうわけわからん。朝からこんなのばっか。理解の範疇はんちゅう越えてるわ。俺どうしたらいいの?

 ぼけっとしたまま身動きしない妹を前に困惑してた、そんな時。


「あ、あ、あに……、あ、え……」


「お、澪奈! 戻ってきたか?」


 目の焦点が合ってきて、ぶつぶつ何か言い出した。なんかちょっとアレだけど、大丈夫だよな?


「え、え、ぉ、ぉ、お……」


「お? お……何?」


 そう言いながら再び妹の顔を覗き込む俺。

 今度はお互いの視線がピッタリ合った。


「お、お、! かわい~!」


 そう声を上げたかと思うと、妹が椅子に座ってる俺に覆い被さるように抱き着いてきた。


「え? ちょっと澪奈、やめろって暑苦しい。いつも近寄るなって言ってくるくせになんだよ」


 男の時なら絶対こんなことしてこなかったのに。なんか釈然としないわ。まぁ悪い気分ではないが。あ、いや、それは置いておくとして、今なんつった?


「もうお姉ちゃん、いつもこんな部屋にこもってお仕事してるなんて、こんなに可愛いのにもったいない。今日はバッチリおしゃれして出かけよう!」


 お、お姉ちゃん?

 何言ってんの澪奈このこ


 つうか、男の俺のときは『兄貴』で、女の子の俺は『お姉ちゃん』ってか? 俺だってお兄ちゃんと呼んでほしかったぞ!

 

 い、いや、今はそんなことはいいんだ。

 この妹の態度。一体どうしたってんだ? 何で兄貴から急にお姉ちゃん呼びに変わったんだ?


 ……いや、急じゃないか。さっきのあのぼーっとして無反応になったあの時。あれのあとから様子が急変したんだよな。


『ズキン』


「うくっ」


 俺は俺で、急に妙な頭痛が襲ってくるし。


『ズクン』


『……変……』


『ズキン』


『……改……変……』


 なんだ……これ。

 頭痛と共になにか、頭の中でイメージが浮かび上がってくる。


『ズクン』


『……改変……』


『ズキン……』


 か、改変オルター


 改変……って、なに。


 …………。


 ……あっ。


 そうか……、そういうことなのか?


 痛みは次第に治まっていき、頭に残ったのはそんな言葉。


 なぜだか自然とその言葉の意味がスッと頭に入ってきて、今自分に起こっていることや妹の様子についても不思議と理解することが出来た。


 ははっ、なるほど、なるほどね。

 面白い。ある意味面白いんだけどっ。


 けどさ。


 これは不可逆、不可逆な能力っぽいんだ。畜生!




 俺はどうやら元の姿には戻れそうもない……。

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