第20話 レオちゃん先生
食器を並べ終えて二人が手持ち無沙汰にしているところへ、シャルロッテの手によりさっそく第一陣の料理が運ばれる。
大振りの木のボウルでやってきたそれは、新鮮な色とりどりの野菜がなんだかんだと和えられたサラダだった。
そこへ香ばしい油と何かの香草が、スプーンとともに別の器で添えられる。
「これもうお皿によそっちゃっていいの?」
アイラの尋ねに、シャルロッテは「いいよ!」と元気よく返した。
「オイルとハーブは、あとでお好みでね! おいしいよ」
シャルロッテの言葉通り、ボウルからは瑞々しい香りが立つ。アイラも自然と笑みを浮かべながら、共に届けられた木のスプーンでサラダを取り分け始めた。
「なんかこう、準備だけでわくわくしますね! お祭りみたいです!」
レオンハルトにもその笑みを向けながら、アイラはしかし、恥ずかしそうにこう付け加えた。
「いつもは、お父さんと二人でしたから」
レオンハルトは、ただ優しく、静かに微笑みを返す。
「いい夜になるね」
「はい! レオさんもいてくれて嬉しいです」
へへへ、とはにかんだアイラは、しかしすぐさま慌ててレオンハルトを見た。
「あ! でも、あの、レオさん、学院の先生……教授? なんですよね!?」
レオンハルトはそれがどうかしたのかと首を傾げた。
「ってことは、その、あの、そんなに気安く呼んでちゃダメです……よね!? すみませんすみません、気が付かなくて! あのあの、えっと、これからは、マルケルス教授ってお呼びしたら……」
「いやいや、それは――」
レオンハルトがアイラの陳謝を解こうと身じろぎしたところへ、大きな丸いパンとパン切り包丁を持ったサンドラが割って入った。
「何言ってんだいこの子は。レオちゃんでいいんだよ」
「レオちゃん!?」
真に受けるアイラを手で制しながら、レオンハルトは呆れた様子でサンドラを見上げた。
「変なことを教えないでくれ……」
そうして視線をアイラに戻し、優しく告げる。
「確かに、学院内では他の目もあるから、先生とか、教授とか呼んでくれる方が無難かもしれないね。でも、今日みたいに公の場でなければ、今まで通りで構わないよ」
ほっとした顔をしたアイラの横へ、続いて木の皿を持ったシャルロッテがやってくる。
「じゃあレオちゃんって呼んでいいですか?」
「何を聞いていたんだ、君は黙ってなさい」
シャルロッテは「ちぇーっ」と口をとがらせながら食器を置くと、サンドラと目を見合わせてガハハと笑いながら台所へ戻っていった。
あとにはレオンハルトのやれやれといった深いため息と、大きなパンが残される。
双方を見合わせながら、ぎこちなく手を出したり引いたりしているアイラに、レオンハルトが穏やかに声をかけた。
「まあ、そう緊張するなということさ。これから学院では師弟の関係とはいえ、私にとって君は――要は、姪っ子みたいなものだからね。気安く呼んでおくれ」
この言葉にアイラはいくらか自信をつけたように頷いて見せると、レオンハルトにこう尋ねた。
「じゃあ私もレオちゃんって呼んでも……?」
「それは勘弁してくれないかなあ」
このときレオンハルトは、初めてアイラの、年相応のいたずらっぽい笑顔を見たのであった。
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