第14話 ここが私のアナザースカイ

 二人は来た時と同じ門から外に出る。アイラはふと頭上の〈アスガルの鬼〉を見上げ、日当たりによって変わった表情に気が付くと、自然と口角が上がった。もう気持ちが前に向き始めたらしい。


「さて、遅くなってしまったが、次は君の住む学生寮に案内するよ」


「はい、私楽しみです! お願いします!」


 二人が門から東南へ四半時ほど歩くと、初めに「レブストル第一学寮」と書かれた看板が目に入った。


 構内の管理棟よりも大きな、煉瓦造りの三階建て。


 周囲の建物よりも新しく、玄関の扉は遠目に見ても豪華に作られていた。


「ここが私の入る寮ですか? うわあ、ワクワクします!」


 目を輝かせるアイラだったが、レオンハルトは笑いながら首を振った。


「いいや、まだ先だよ」


「あ、そうですよね! 立派過ぎると思ってました!」


 てへへ、と頬を掻きながらさらに歩を進めると、次に「レブストル第二学寮」が現れる。


 先ほどの第一学寮ほど新しくはないが、しっかりとした造りの、こちらは二階建ての建物だった。


「ここですか? ここも素敵ですね!」


「いいや、もう少し先だよ」


「あ、そうなんですね! すみません気が急いちゃって」


 てへへ、と髪の毛をもてあそびながらさらに歩を進めると、今度は「レブストル第三学寮」が現れる。


 第二学寮よりもさらにこぢんまりとした、言うなればそのあたりの宿屋と大差ない、二階建ての建物だった。


 おや? とアイラは思ったが、ここにしたって田舎者のアイラからすれば都会の建物に違いなかった。


「わかりました、ここですね? 街並みに馴染んでて、いい感じです!」


 するとレオンハルトは三度首を振った。


「いいや、まだもう少しだけ先だよ」


「あ、ええ? そうなんですか?」


 そうして二人は、第一・第二・第三の寮が面する通りから一本横道に逸れ、小さな通りをさらに歩いた。先ほどまでの整然とした雰囲気から少し変わり、なにやら軒先には下町然とした粗野さが目立つようになった。


 ここまでくると、王都といえどもそこらの地方都市と変わりはない。


 ふと空を見上げると、夕焼けの雲は西に去り、すでに薄紫の暗がりが東から迫っているところだった。


 アイラは故郷の最寄り駅があった小都市の街並みを思い出す。たまに父に連れられて街に来たときも、帰るころにはいつもこんな空だった。


 やがて、レオンハルトが歩を緩めて立ち止まった。


 すわ目的地かと見上げるが、寮らしき看板はどこにも出ていない。


 目の前には確かに二階建ての建物があった。だが軒に出た看板には〈レブストル〉の文字はなく、ただ何かの花の意匠が大きく描かれている。


「えっと……ここが、私の入る寮ですか?」


 アイラは尋ねながら建物をまじまじと眺めた。


 確かに二階建てだ。


 きちんと窓もある。


 小さくはあるが、たたずまいは第三学寮と似た雰囲気だ。


 だが、少し――いや、かなり、古ぼけている。


 この通りの建物自体が大通りよりも古いものばかりだったが、その中でも特に年季が入っていると見える。


 アイラの問いに、レオンハルトはやっと頷いた。


「ああ、着いたよ。ここが〈レブストル〉第四学寮、君の下宿先だ」


 まあ、確かに、ちょっと古風な宿ではあるが、と言葉を濁しながら、レオンハルトは扉に手をかける。第一学寮とは比べるべくもなく簡素な造りの木の扉は、やや軋みながら二人を中に招き入れた。

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