第13話 夢の入り口

 レブストルの図書館は敷地の奥側にあった。前面にひときわ高い時計塔をようした、石造りの大きな面構えである。


 レオンハルトによると、レブストル創設時に王都を中心に国内の魔導書を一挙に集め(一部は半ば接収する形で)その蔵書が形作られたという。


 これらが集められた理由は、単に門徒の教育や教授たちの研究のためだけではない。


 実際、これまでの魔導書の管理には問題があった。


 単なる本として公の図書館が管理するには、魔法の知識が欠けるために危険を及ぼしかねないし、かといって魔法使い個人の蔵書として埋もれさせておくには、魔道発展を期する国としては価値の大きな損失があると考えられたからだ。


 だが条件さえ整えば、ゆくゆくは公の図書館で魔導書が管理され、広く市民に利用されることもまた国として望む形である。そこでまずは、王都の図書館に魔法に長けた司書を在籍させることがその第一歩として捉えられた。


 逆に言えば、以後新しく王都の司書になるための条件として、魔導書を始めとする魔法図書全般を取り扱う免許が必要になったのである。


 このときすでに司書として勤務していた職員には、希望によってレブストルでの研修が施された。うち何名かがその免許を得て現在も働いており、これにより王都市中の図書館でも一部の魔法関連書籍が取り扱われるようになっている。


 ただこうした研修制度は過渡期に限定され、アイラが王都の司書になりたいとの夢を抱いたころには、すでにレブストルでの事前の免許取得が必須のものとなっていた。


 そういうわけで、アイラは別に魔法それ自体を学びたいわけではなかったのだが、王都の司書になるためには、レブストルの門を叩くほかなかったのである。


 アイラは図書館の前に立ち、その全容を眺めた。その目は、今日降りた駅舎を眺めたときと同じ目をしていた。

 

 大きい。当然、彼女がこれまで見てきた地元の図書館より、何倍も。


「やはり、気になるのはここだろうね」


 レオンハルトの声掛けに、アイラは目を爛々とさせたまま「はい」と口だけで答える。その目は彼ではなく、図書館をのみ捉えていた。


 そこへ、こおん……と鐘の音が響いてきた。


「だが――ほら、もう日が暮れるようだよ」


 レオンハルトはアイラの視線を促すように、指先をゆっくりと上方へ向けた。アイラがそれを追うと、図書館に供えられた時計塔が、午後五時を示したところだった。


「君のことだから、一度入ったら、しばらく出てこられないだろう?」


 アイラは否定できなかった。本好きにとって本が大量にある空間は、読むと読まざるとに関わらず、それだけで寝食を忘れ得るものである。


「また今度にしよう。これからはいつでも来られるからね」


 確かに、この広大な敷地を歩き回るだけでも長旅のアイラには一苦労だった。その上いま図書館に入ってしまったら、自分は宿にもたどり着ける自信がない。


 はやる気持ちを抑えつつ、レオンハルトの勧めに従って、アイラは名残惜しそうにその場を後にした。

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