紫陽花

 窓を開けると、外は雨。

 梅雨はしとしと長く降り続いたものだったが、最近の雨は激しい。

 

 庭の紫陽花がたわむように揺れて、大きな花房が重たそうだった。


 ふと目を凝らして見ると、紫陽花の横にたたずむむ人がいる。


 青紫の無地の着物に、白い帯。帯には赤紫の鮮やかな、紫陽花の見事な刺繍。

 髪はふんわりと結い上げて、頬にかかる後れ毛がしっとり濡れていた。


ひさしのかげにお入りなさい」


 そう声をかけてみるが、聞こえたのかいないのか。少し悲しそうにうつむいているだけだった。


 私は傘を貸そうと、急いで庭に出てみたけれど、紫陽花の横には誰もいなかった。


 いつの間にか雨は上がっていて、明るくなった空には、鳥のさえずりが聞こえていた。


(終)

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(窓を開けると…… 09)

ショートショート『麻子のひとひら小説集』より。

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