第1話『デッド・ワイズ・サーキット』7
ホバースレイを運転するデイヴはバッカスと共に施設の中央制御ルームへ向かっていた。
そして、制御ルームの分厚い鉄製の扉前で着くとデイヴは停車する。
「どうだ?」
デイヴの問いかけと同時にバッカスが道中に仕掛けられた防犯センサーを確認すると、電源は無事に切れている。
「無事に電源装置は壊せたみたいだ」
「了解!」
そう言うと、工具箱からダイナマイトを取り出す。
「派手にぶちかまそうぜ!」
二人はニヤリと笑うと、ライターで着火し、鉄の扉に向かって投げる。
——ボガァァァァァァァァン!
地響きが鳴る爆発が鉄の扉を吹き飛ばし、施設の制御装置が露わになる。
「もういっちょ行くぜ!」
二人は再び、手に持ったダイナマイトに火を付けて投げる。
爆発音で飛び起きるパロメとブース。
そして、急いで制服に着替えると、警棒を持って部屋から飛び出る。
「あの音は何だ!」
「音は下の階からです!」
——ボガァァァァァァァァン!
再び爆発音と共に建物が揺れる。
「一体、何事だ!」
テリーとマイカが玄関にある脱走防止の太い鉄格子前に着くと爆発音で起きた子供たちが辺りを見回していた。
「おい、お前ら! 鉄格子の近くから離れろ!」
テリーの圧がある声で子供たちは鉄格子の側から離れる。
「行くよ!」
マイカの合図で二人は工具箱からダイナマイトを取り出すと、火を付けて投げる。
そして、爆風と共に鉄格子は崩れ去ると、テリーとマイカは子供たちを先導する。
「お前たち! ここから出たくはないか!」
子供たちは二人に注目する。
「脱出しましょう! 皆んな着いてきて!」
そう言うと、テリーとマイカは玄関から外に出る。
それに続くようにゾロゾロと子供たちが次々に外へ飛び出す。
リュカの運転するホバースレイでライムはパロメたちが居る二階に続く階段へ向かっていた。
「いっ……」
ライムは頭を痛そうに押さえる。
「大丈夫?」
「ああ。それにしても、リュカはセンスがいいな!
デイヴの簡単なレクチャーで乗りこなしている」
「まぁ、A+ですから」
リュカは照れくさそうに微笑む。
『制御ルームの爆破完了!』
『こっちも鉄格子を破壊した!』
無線から報告を聞くと、ライムはポケットからスイッチを取り出す。
「皆んな流石だぜ!」
そう言うとスイッチを押す。
——バアァァァァアン!
工場の石油倉庫に仕掛けたプラスチック爆弾が爆発する。
そして、激しく燃え上がった炎で近くのスクラップに火が燃え移り始める。
音に気付いた制服を着たセキュリティたちはスクラップ置き場へ向かうと、そこは大火災になっていた。
「おい! 早く消化活動を!」
複数回の爆発音にパロメとブースが急いで一階に降りる。
すると、焦げ臭い匂いがパロメたちの鼻を襲う。
「貴様らァ!」
鬼の様な形相を浮かべるパロメ。
視線の先には、リュカとライムがライターでカーテンに火を付けていた。
「よう! クソババア!」
ライムは複数のダイナマイトに火を付けてパロメに向かって投げる。
顔が引き攣るパロメとブースは咄嗟に階段を登る。
パロメが振り向くと、導火線はもう僅かだった。
「畜生がァ!」
——ボガァァァァァァァァン!
爆発で階段が崩れ、二人は地面に落下する。
爆煙が収まると、そこには両足が吹き飛んだブースが悲鳴を上げていた。
「うぁぁぁぁあ! 俺の足がぁぁあ!」
泣きじゃくるブースは助けを求めるために、隣で倒れ込むパロメを見る。
「えっ……」
そこには上半身だけのパロメの遺体があった。
「ぎゃぁぁぁぁあ!」
悲惨な状況にライムはリュカの目を手で覆うと、泣きじゃくるブースをゴミの様に見下ろす。
「いい気味だ。クソ野郎」
「クソガキ共ぉぉ! 絶対に
カーテンの火は建物全体に広がる。
「このまま、今までの子供たちの恨みと共に焼き死ね!」
そうブースに吐き捨てると、リュカの目を覆ったまま、ホバースレイに乗せる。
「アイツらの方を絶対に見るな! いいな……」
「分かった……」
今まで全く聞いたこと無い威圧的なライムの声にリュカは背筋が凍る。
「行くぞ! 玄関へ向かえ!」
ライムの掛け声に従い、リュカはホバースレイを走らせる。
——ヴォアァァァ!
炎は更に勢いを増して、部屋全体を包む。
リュカたちが玄関を出ると、燃え盛る工場の消化を諦めたセキュリティたちが工場から外に逃げ出しているのが見える。
「こっちに手を回す余裕は無さそうだな。
リュカ! 正門まで進んでくれ!」
——ウゥゥゥウンッ!
リュカはハンドルを捻り、加速させる。
すると、刑務所の様な有刺鉄線で脱出防止加工された正門の前で待機をするデイヴたちが見える。
すると、先程までの近寄りがたい雰囲気から、いつもの優しいライムに戻ると手を振る。
皆の前で停車させるとマイカがリュカをぎゅっと抱きしめる。
「無事で本当に良かった! ライムを無事に連れてきてくれて、本当にありがとう!」
——ガシャァァァンッ!
建物が崩れる音が聞こえて、ライムとリュカが振り向くと、孤児院は燃え盛り、崩れ始めていた。
「これで、俺たちは自由だ……」
デイヴはライムの肩に手を乗せる。
「じゃあ、とっととこんな場所から出ようぜ!」
「そうだな」
ライムたちは持っている残りのダイナマイトを正門に並べると着火する。
「離れろ!」
子供たちは走って正門から離れる。
——ボッッッギャァァァァァァァァン!
子供たちを閉じ込めていた檻は無惨に吹き飛ばされ、そこには自由への道が広がっていた。
「出発だ! 俺らはもう、誰にも縛られない!」
「「「「「「オォォォォォォ!」」」」」」
リュカたちは空に向かって雄叫びを上げると、拳を突き立てる。
そして、ライムたちはホバースレイに搭乗する。
「私、リュカのホバースレイに乗る!」
マイカがライムの後ろに乗ると、デイヴが不貞腐れた表情を浮かべる。
「おい! こっちに乗んないのかよ!」
「だって、アンタの運転は荒いんだもん!
こっちは女子同士仲良くするから、そっちは男同士で仲良くしてちょうだい!」
リュカたちはエンジンを掛けると、門の外へ猛スピードで飛び出す。
「ひゃっほー!」
デイヴはじっと、遠のいていくマイカを見つめる。
「チッ。何だよそれ……」
「おい、そんな不貞腐れんなって」
「お前には、俺らがいるぜ!」
デイヴに向かってテリーとバッカスはニッコリと笑う。
「はぁ……」
深いため息を吐くと、デイヴもホバースレイを発進させる。
リュカたちとデイヴたちはホバースレイで並走する様に走る。
「そういえば、これからどこに向かう?」
バッカスの問いでリュカがもの言いたげに俯く。
「どうしたリュカ?」
「実は、どうしても取りに行きたいものがあるんだ……」
「ほほう。ズバリなんだそれ?」
「リビオン……」
「「「「「「えっ!」」」」」」
一同は驚き、リュカを見つめる。
「お兄ちゃんの機体なんだ」
デイヴは楽しそうに笑みを浮かべる。
「形見のリビオンか……よし、取りに行こう!」
リュカはデイヴを見つめる。
「リュカ、その機体でレーサーになろうぜ! 皆んな、決まりで良いよな?」
ライムたちも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「勿論だ!」
リュカは笑みを溢す。
「皆んな、ありがとう」
ライムたちは、リュカの生まれ故郷であるイースタウンへ向かった。
着いた頃にはすっかり夜が明けており、リュカたちは日差しに照らされた景色を見て絶句する。
そこは戦地跡で、かつて栄えた面影は無く、只々瓦礫の山が広大に広がるだけだった。
ライムたちは、こんな所からどうやってリビオンを見つけるんだと考えていた。
すると、リュカが何かに導かれる様に歩みを始める。
ライムたちは不思議がりながらも着いていく。
すると、そこには半壊したリビオンと白骨化したリュウジの姿があった。
リュカはリビオンに駆け寄ると、膝から崩れ、自身の腕についたミサンガを見ながら泣く。
ライムたちは、その光景を見守るように見つめた。
To Be Continued...
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