第1話『デッド・ワイズ・サーキット』6

 リュカたち一年生は大きなガラスで出来たショーケースに入れられていた。

子供たち全員の首には値札と番号を付けられている。

「お前たち、しっかり売り込みしろよぉ!」

リュカが外を見ると、そこには不適な笑みを浮かべた大人たちが物色する様に自分たちを見ていた。

まるで、自分を物のように見る大人たちの視線にリュカは悪寒を感じる。

「新入りども! 最前列に並べ!」

一年生の中でも最近孤児院に入った者たちは、ショーケースの最前列に立たされる。

『寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! 今日は新入荷した商品の紹介だ!』

観客に向かってメガホンを使ってブースはショーケースの前に並んだ新入りの売り込みを始める。

すると、数分経った頃だろうか。

リュカの前にシルクハットを被ったスーツ姿の男が現れる。

「ほぉ。顔は中々の上玉だな」

男はジロジロとリュカを見ると、ペロリと舌を出す。

「コイツは美味そうだァ」

「ひぃ……」

リュカは恐怖で顔が引き攣つる。

男はリュカの顔を物色すると、値段を見つめる。

「18000ギーツ! おい、少し値段が高くないか?」

男はブースに尋ねる。

『ええ! 何たってコイツはまだ七歳ですからね! しかも、中々の上玉』

男は腕組みをする。

「ふん。俺が売上にどれだけ貢献していると思っている?」

ブースは頭をポリポリと掻く。

『ええ。では、いくらをご希望で?』

男は小切手を出すと、ペンで書き込み始める。

「では、16000ギーツでどうだ?」

リュカは気分が悪くなり、俯く。

『おー、16000ですか。 いきなり2000の値引き……』

悪くない!

ブースはニヤリと笑う。

『皆さま! 16000以上を出して欲しい方はいらっしゃいますか?』

ブースの呼びかけで周りにいた観衆たちは騒めきながら一歩下がる。

『では! 遊郭の主人、ポール様が落札!』

リュカは具合が悪くなり、ぐったりと俯く。

ポールはショーケースの中に通され、震えるリュカの顔を手で撫で回すように触る。

「良い髪と肌だ。きっと人気嬢になるだろう。

16000ギーツも払ったんだ。お前にはしっかり働いてもらうぞ」

そう言うと、ポールは再び舌をペロリと出し、リュカの頬を舐める。

「いやぁ!」

リュカは抵抗するようにポールの顔を両手で退ける。

「このガキ!」

——バンッ!

ポールはリュカの頭を拳で殴りつける。

「痛い!」

リュカは頭を抑えて蹲る。

「チッ! 商品じゃ無かったら顔を思いっきり殴っていたところだ。

おい! ここの教育はどうなっている」

ブースは申し訳なさそうに頭を下げる。

「すみません! 受け渡しの明日までにたっぷりと教育をしておきます!」

ブースの対応にポールは深呼吸すると、冷静さを取り戻す。

「いや、良い。傷が付くとお客からの評判が落ちる。

以後、こんな事が無いように」

「はい! では、これを……」

ブースはポケットからリュカの偽造身分証を出すと、ポールに渡す。

ポールは不適なえ笑みを浮かべ、リュカを見つめる。

「では、また明日」

リュカはショーケースを後にするポールを睨みつける。

明日、私はこんなところに居ない! 


 ライムたちはスクラップ工場で各々、黙々と作業を行なっていた。

『バッカス。どうだ?』

無線から聞こえるライムの問いかけに重い角材を運びながら答える。

「あぁ。もうすぐ電源装置に着く」

「グズグズするな! 早く運べぇ! ウスノロども!」

無線越しに現場監督の怒鳴り声が聞こえ、ライムたちは耳を押さえる。

「何とか設置する。 完了次第、また連絡する」

『了解』

額から噴き出すように流れる汗をかきながらバッカスは必死で角材を運ぶ。

そして、角材を山のように積まれた置き場まで運ぶと、隣の四角い巨大な電源装置を見る。

角材付近には見回りの警棒を持ったセキュリティが立っていた。

バッカスは角材を積むと、素早くズボンのポケットから小さな機器を取り出し、スイッチを入れると投げる。

——ビィィィィィィィィィ!

落下と同時にブザーが鳴り響き、セキュリティたちは音の方へ注目する。

「何事だ!」

バッカスはその隙に電源装置に近寄ると、装置の裏の隙間に電磁パルスを貼り付ける。

『設置完了』

バッカスの報告を聞くと、ライムは胸元からプラスチック爆弾を取り出す。

スクラップ置き場でライムは機械のオイル交換中にセキュリティの目を盗んで石油倉庫に仕掛ける。

『こちらも仕掛けた』

ライムの声に安堵の表情を浮かべるマイカたち。

そして、マイカとテリーが組み立て作業中に圧力ポンプをこっそり胸元にしまう。

『こっちもパーツを入手したよ』

ライムは空を仰ぐと微笑む。

「あとは、やるだけだ……」


× × ×


 昼休みになり、孤児院に戻るライムたち。

いつものテーブルに向かうと、そこにはリュカが涙を流して座っていた。

それを見て、急いで駆け寄るライムたち。

「おい、どうしたんだ?」

ライムが問いかけると、リュカは袖で涙を拭く。

「ううん。大丈夫!」

ライムたちはリュカの反応で、相当なクズがリュカを買ったことを察した。

「必ず、今日ここを出よう」

「うん」

返事をするリュカにライムは無線機を耳に付けてあげる。

「これで、俺らと連絡が取れる。今日の夜、十一時から作戦を開始する。

何かあったら、これを使って連絡を行うんだ」

「分かった。そういえばライムたちは今日、寮で泊まらなくて大丈夫なの?」

「俺らは明日、移送させられるから寮には泊まらない」

「良かった……」

ホッとするとリュカはため息を吐く。

ライムは窓から見える冷房が効いた職員室で談笑しているパロメとブースを睨む。

「もう、アイツらの顔を見るのは、これで最後だ」


× × ×


 すっかり夜も更け、職員室でワインを飲むパロメとブース。

「あの忌々しいライムとかいうガキとも、明後日にはおさらばだ」

「でも、そう考えたら俺らは幸せですね。強制労働で人生が終わるなんて思ったらゾッとする」

「アイツらと俺らを一緒にするな! そもそも、生まれた時点で命の価値が違うんだから」

「それもそうですね! ハハハハハハ」

ブースは壁に掛けられた時計を確認する。

「十時半か……」

「もう、そんな時間か?チッ。明日は朝早い。さっさと寝床に戻るぞ」

そう言うとパロメとブースは、それぞれ二階の自室に戻る。


 ライムたちは月明かりの僅かな光で部屋に掛けられた時計をじっと確認している。

「あと五分……」

そうマイカが言うと、速やかに布団を壁に寄せて、床からホバースレイとバッグを取り出す。

「じゃあ、作戦通り進めるぞ」

ライムの号令と共に皆が耳へ無線機を付ける。

そして、バックのダイナマイトを各々の工具箱に入れ始める。

「ホバースレイを起動する」

バッカスはそう言うと、バイクのハンドルの様なホバースレイの操縦桿の赤いスイッチを押す。

——ウォィン。

起動音が聞こえ、蒼く光るとホバースレイは地面から浮き始める。

「あと三十秒……」

マイカの合図を聞き、ライムはポケットからリモコンを出す。

「三、二、一……」

——カチッ!

ライムがスイッチを押す。

すると、電源装置に仕掛けられた電磁パルスが作動する。

——ヴィィィィィィンッ!

電源装置は電気を放電させながら、活動を停止する。

それに連動して、工場全体、そして施設の電気が消える。

「これより、各分隊に分かれる。

皆んな、健闘を祈る」

そうライムが言うと、デイヴとバッカス、ライムとリュカはホバースレイに乗り、テリーとマイカは玄関に向かうため、各々は部屋を別々に出た。


To Be Continued...

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