第1話『デッド・ワイズ・サーキット』8

 リュカたちはイースタウンの近くに拠点を作り、リュウジの墓を建てた。

そして、少しずつリビオンを分解して拠点に持ち帰る。

ライムたちは近くの街から食料や使えそうな部品を盗んで生活を始めた。

また、デイヴとリュカは年齢を偽って小規模な違法レースに出場し、リビオンの修復に必要な活動資金を集めた。

そして、ライムたちはチーム名を決める。

薔薇の花言葉の情熱と、この世に調和をもたらす円を描く龍のウロボロス。

二つを合わせて、ドラゴンローズ・・・・・・・と名付け、気付くと界隈では知らない者が居ない違法レースチームになっていた。

そうやってリビオンの修理をしていると、気づいたら三年の時が流れていた。

 

 ライムたちは防空壕を改装した基地で生活していた。

そしてメンバーの背後には、継ぎ接ぎながらも修復がされたリビオンがある。

ようやくだな!」

ライムたちは嬉しそうにリビオンを眺める。

「やっと、ここまで来た……」

すると、マイカがカメラを持って来る。

「完成祝いに、皆んなで記念写真撮らない?」

「良いね!」

「撮ろうぜ」

マイカはカメラを三脚に固定すると、皆はリビオンをバックに集合写真を撮るため、横に並ぶとニッコリ笑う。

「はい! チーズ!」

——カシャ!

写真を撮った瞬間、リュカは違和感を感じて自分の腕を見ると、ずっと付けていたミサンガが切れていた。

「あ!」

ライムたちは切れたミサンガを感慨深く見つめる。

「願いが叶ったから切れたんだな……」

リュカの一言に一同は顔を上げる。

「俺らはまだまだ強いチームになるぜ!」

デイヴはリュカに微笑む。

「そうだな」

「それじゃあ、新たな目標はデッド・ワイズ・サーキット優勝でどうだ?」

デイヴの一言でリュカたちは顔が引き攣る。

それは、デッド・ワイズ・サーキットというレースがいかに危険なレースなのかを知っていたからだ。

「本気で言ってる?」

マイカはデイヴを心配そうに見つめる。

「本気も本気さ! あのレースで優勝したら違法ではあるが、この界隈で俺らが一番って事になる」

「一番か……」

リュカは俯くと、自身がレーサーになりたいと思ったきっかけを思い出す。


 リュカの父はリビオンのレーサーだった。

元々、リビオンは戦闘兵器では無く、空中を舞台にレースをするために作られた機体で、戦争が始まる前は各地で頻繁にレースが行われていた。

リュカの父は、地区代表に選ばれる程の実力者だった。

しかし、レース中の事故で世界一位になるという夢を叶える事なく死んだ。

世界大会への切符を手にするためのレースで、一位の座をライバルと争った結果、衝突事故が起きたのだ。

物心が付く前の事故で、リュカは父の顔も覚えていなかったが、大きくなると話を聞き、リュカとリュウジの人生に多大なる影響を与える。

リュウジがパイロットになったのは、リュカと母を養うためもあったが、何よりも憧れの父と同じくリビオンに関わっていたいと心に決めていたからだった。

「リュカ! 俺は軍の中でも一番凄いパイロットになって、戦争を終わらせてみせるからな!」

「じゃあ私、リビオンのレーサーになる!」

「ほほう?」 

そう言うと、リュウジはポケットからミサンガを出して、リュカに付け始める。

「この前、軍の仲間に貰ったんだ。リュカにきっと似合うと思ってよ」

そして、付け終わるとリュカの目を見て微笑む。

「じゃあ、必ず一番のレーサーになってくれよ」

「うん!」

リュカはリュウジに笑顔で返事をした。


 ライムたちはデイヴの提案に思い悩んだように考え込んでいる。

「やろう……」

一同は一斉にリュカの方を見る。

「一番になりたい! この大好きなリビオンで」

リュカはリビオンを見つめる。

「じゃあ、決まりだな!」

二人の会話を聞いたライムたちはため息を吐く。

「しょうがねぇ……やるか!」

ライムがそう言うとリュカとデイヴは満面の笑みになる。

「それじゃあ、早速飛行テストだ! 一番に絶対なるぞ!」

デイヴの掛け声に合わせて一同は拳を突き立てる。

「「「「「オォォォォォォ!」」」」」」


 おもむろにリュカは天井を見上げていた。そこには、解けたミサンガと幼い時のドラゴンローズのメンバーが一緒にリビオンを背にしてニッコリ笑っている写真が貼られている。

リュカは写真を見ながら微笑む。

皆んなと何とかここまで来たんだ。明日だって何とかなる。

「明日は頼んだぞ……」

リュカは操縦桿のドックタグを外す。

そして、ドックタグに刻まれたリュウジの名を見つめると自身の首に付けてギュッと握った。

「私なら出来る」

そう呟くと大きく息を吐いた。

皆んなの為にも絶対勝って見せる。

——プー! プー! プー!

リュカの耳に付けた無線からブザーが鳴り響く。

リュカはスイッチを押すと無線に応答する。

すると、無線からライムの声が聴こえる。

『明日のレースの航路を確認する。ロビーに集まってくれ』

「了解。今から向かう」

無線を切るとリュカはハッチを開け、リビオンを後にする。


 リュカはチカチカと照明が点滅する地下通路を進む。

そして、突き当りまで来ると、大きな四角い電子機器が取り付けられた扉がある。

扉の前で立ち止まると、機器のセンサーに手をかざす。

『認証完了』

機器の画面に表示されると扉が上に持ち上がる。

すると、目の前には機械や配線でごちゃごちゃとした広い部屋が現れ、ドラゴンローズのメンバーが各々作業を行なっている。

ライムが部屋の中央で腕に付けたデバイスから表示されるホログラム状の地図を確認するとリュカを見る。

「いよいよ明日だな」

「ああ」

——ピビビッ!

機械音が鳴り、リュカがその方向を見ると、ピンク色でバスケットボールくらいの球体が胸に目掛けて飛んでくる。

リュカが球体を抱きしめると、球体にある正方形の切れ目が回転して液晶画面が出て来る。

そして画面には絵文字の笑った顔が表示されている。

「ラビ! どうした?」

——ププッ。

ラビは心配そうな顔を浮かべる。

「心配してるのか?私ならもう大丈夫」

リュカはラビに微笑むと、そっと地面に下ろす。

すると、横から細い四脚の足を出し、テクテクとバッカスに向かって歩いていく。

「では、明日の作戦会議を始める! 皆んなこっちへ集まってくれ!」

他のメンバーは作業を止め、ライムの側へ集まる。

ライムは腕のデバイスに表示されている地図を摘むと、放り投げるような動作をする。

——ピコンッ!

リュカたちの腕に付いたデバイスが反応し、地図と出場者が表示される。

「明日のレースは十一人の出場者で開催される。

その中でも、優勝候補のシャリダンが鬼門になるだろう」

リュカはデバイスに映る人相の悪い葉巻を加えたシャリダンをじっと見つめる。

「恐らく、機体もかなりの改造を施されている。

あと……ヤツは前回デイヴに負けたことを根に持っている。

何としてでも勝ちに来る筈だ」

リュカはデイヴを見る。すると、デイヴは答えるように笑みを浮かべる。

「なぁに。リュカなら、あんなヤツ楽勝だろ。

もしかして、ビビってたりする?」

「ビビってる訳無いだろ!」

「そうだよな! だってA+なんだから」

「チッ……」

リュカは舌打ちをすると、デバイスに視線を戻す。

「マシンの馬力は間違いなく勝てないだろう。

だから、明日は鉱山の近道を攻める」

リュカは懐かしそうにデバイスに映された鉱山の地形を見つめる。

「この道は険しく、並のレーサーなら自滅するのがオチだが、デイヴに散々練習させられたリュカなら問題ないだろう」

「もちろんだ」

リュカが自信満々で答えると一同は安心したように頷く。

「他に報告しておきたい事がある者はいるか?」

すると、テリーとバッカスが手を挙げる。

テリーが譲るような動作をすると、バッカスは早口で喋り始める。

「ブースターのメンテナンスと少し改良をしておいた。これで、リュカが気にしていた操作の僅かな遅延も無事に解決した。もう安心だぞ! 明日は絶対勝ってくれよな!」

バッカスが喋り終わると、テリーが続けるように話す。

「あと、新しいレーザーガンの標準はどうだった?」

「だいぶ見やすくなったよ」

「そうか。なら良かった。レーザーガンのバッテリーもデイヴが勝った金のお陰でかなり良質になった。装弾数が六十発になったから、前よりも弾の心配は無くなったが、過信して撃ちすぎるなよ」

「分かってるって! 二人とも本当にありがとう! 明日は任せてくれ! 何たって世界最高のメカニックと武器整備士がやってくれたんだ。

負ける筈ない!」

二人は満面の笑みで答えるリュカの頼もしい姿を見ると、嬉しそうに微笑む。

「よし! では、この後、飯を食ったら明日に備えて各々早めに休むように!」

「「「「「「オォォォォォォ!」」」」」」

一同は拳を突き出す。

「今日は奮発してステーキ肉を買ってきたから、皆んながひと段落したら焼き始めるね!」

「ステーキだと!」

「早く終わらせないとな!」

テリーとバッカスは急いで作業に戻る。

リュカは隣にいるデイヴを再び見る。

「昔、デイヴが私にB判定って言ったの覚えてる?」

「あ?そんなことあったか?」

デイヴのあっけらかんとした回答にリュカは睨む。

「あったよ! 本当はS判定だったくせに! 

明日だってデイヴがレースに出れないのは、強すぎて賭けが成立しないからだし……」

「ハハハハハハ! そんな昔のこと忘れちまった!」

リュカはデイヴの反応に頬を膨らませる。

「バカ!」


 何処かの地下施設の前で、一人の軍服の男が司令室前で髪をくしで直している。

「司令官、こんな時間に呼び出して、俺に一体何の用なんだ?」

男が腕時計を見ると、夜の十時を指している。

——コンコンッ!

男がノックをするとドアが開き、軍服の胸に五つのバッジを付けた気の強そうな赤髪の女性が現れる。

男は女性に対してピシッと敬礼をする。

「司令官殿! シュライ、只今参上しました!」

「そういうの良いから、早く入れ」

司令官はそう言うと、シュライを部屋に入れる。

「失礼します!」

司令官は席に着くと、机に置かれた写真をシュライに見せる。

その写真にはドラゴンローズが映されていた。

「この娘に見覚えはあるか?」

司令官はリュカを指差す。

シュライはドラゴンローズの格好からすぐに違法レースのチームだと気付いた。

「司令官は違法レースの趣味があるんですか?貴方も隅に置けませんねぇ」

シュライは司令官にニコッと笑う。

「違うわ! 真面目に話を聞け!」

「はぁ……」

「この娘は調べによると、白銀のリビオンの妹らしい」

そう言うと、継ぎ接ぎのリビオンを運転するリュカの写真を机の引き出しから出す。

「これは!」

「お前も、この機体はよく見慣れている筈だ。 それに、かなりの実力らしい」

シュライはリュカをじっと見つめる。

これが、リュウジが自慢げに話していた子なのか……。

「明日、レースが行われるそうだ。観に行ってこい」

「観に行ってどうするんです?」

じっとシュライは司令官の顔を見つめる。

「連れて来い。その方がこの子の為だろう」

「この子の為?司令官も勝手な事を言いなさる。貴方は優秀な兵士が欲しいだけでしょう。

それに、何故に知っていたなら保護しなかったのですか」

「仕方ないだろう。徴兵に満たない年齢の子供は保護の対象外だった」

「それでも、あの流星の妹ですよ! 彼がどれだけ、軍に貢献したか……」

「うるさい! 規則は規則だ! それに過去は変えられない」

司令官はため息を吐くと、写真をシュライに渡す。

「どちらにしろ、今のままでは人並みの生活は出来なかろう」

不服そうにシュライは写真を受け取る。

「失礼します」

そう言うと、司令室を後にする。


To be continued...

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