第26話 魔法の才能

 サラさんの仕事が終わり、僕とシンシアは、サラさんたくへお邪魔じゃました。

 シンシアは、サラさんに言う。


「め、迷惑めいわくをかけますが、よろしくお願いしますっ!」

「こちらこそ、よろしくね。シンシアちゃん」


 ちなみに、サラさんはいつのにか、シンシアにたいして敬語けいごを使わなくなっていた。

 なぜなのですか? と彼女に聞いてみたら、『年下とししただから、当たり前じゃないですか』という返事が返ってきた。

 僕もシンシアと同じ年数しか生きていないですよ、と伝えるとサラさんの口からは、


『ナオキさんは、ナオキさんだから、敬語なのです』


 という、意味不明な言葉が放たれる結果だ。

 まあ、敬語だろうが、そうでなかろうが、どちらでもいのだが。


「な、ナオキくん……」


 シンシアが、僕の近くまで来る。


「どうしたんだ?」

「私、今日だけでたくさんの幸福がりたと思うんだ」

「それは、素晴すばらしいことだな」

「そうだね。ナオキくんと友達になれて、私のやりたいことリストもまっていって、サラさんの家にもめてもらって……本当に幸福が一気いっきあふている感じがする」


 でも……と、彼女は顔色かおいろあおざめさせた。


「こ、これって、逆に言えば不幸ふこう貯金箱ちょきんばこがたまっているのでは? って思ってしまって。その、私、明日あしたには死ぬのかな……?」


 不幸の貯金箱が、どれだけたまっているんだ?

 幸福すらもうたがう少女なのだった。


 僕は、口を動かす。


「この世には、幸福や不幸のバランスを管理する存在なんていないから、大丈夫だいじょうぶだと思うが」

「そ、そうなのかな?」

「ああ。きっと、シンシアは明日あしたも幸福だ」

「それだったら、いけど」


 …………。


 僕は、シンシアへ声をかけた。


明日あしたは、僕とシンシアの二人で、クエストにいどむ日だ」

「う、うん」

「僕は、シンシアを絶対に死なせないから、それくらいなら、ここで約束やくそくできる。シンシアは、それでも明日あしたは死ぬのかもしれないと、思うか?」


 シンシアは、目を見開みひらいた。

 そして、小さなみを浮かべる。


たしかに。そう言われると、明日あしたも幸せな日が来るのかなと思えてきた」

「そうか」


 そして、僕たちはサラさんの家で、休息きゅうそくのひとときごした。お風呂ふろに入り、三人で食事を取り、夜という時間が回っていく。

 ――それは、よる10時頃じごろ出来事できごとだった。


「では私は、今から衣類いるい洗濯せんたくおこないますので、何か追加で洗濯してほしいものがあれば言ってください」


 と、サラさんが、僕とシンシアに言った。

 白いワンピースの寝巻ねまきたシンシアが、手を上げる。


「今ならまだうので、追加の洗濯物せんたくものはカゴの中に――」

「い、いえ。そ、そうではなくて」

「そうではない……?」

「わ、私が、洗濯をします……! 居候いそうろうしている立場たちばですので」


 …………。


 同じ境遇きょうぐうものとして、非常に耳の痛い言葉が飛んできたのだった。


 サラさんは、「そういえば」と顔を明るくさせる。


「シンシアちゃんは、魔法が得意だったね」

「は、はい……!」

「だったら、お願いしようかな」

「よ、喜んで、やらせていただきます……!」


 ということで、シンシアは洗濯担当となっていた。

 僕は……寝る担当だろうか?

 役立やくたたずにも、ほどがあるだろう。


「では、カゴの中の衣類いるいを洗濯しますね」

「うん。ゆっくりで大丈夫だよ」

「は、はい」


 サラさんは、つくえに向かう。

 僕は、布団ふとんの上に座り、かんがごとをする。


「――洗濯、終わりました」


 そして、わず十数秒じゅうすうびょうにして、シンシアは洗濯を完遂かんすいさせていた。


「「……えっ?」」


 そのあまりの高速洗濯こうそくせんたくに、僕とサラさんは同時どうじおどろいた。


 何せ、昨日のサラさんの洗濯は、30分ほどの時間をかけていたのだ。

 水魔法みずまほうやら風魔法かぜまほうやら熱魔法ねつまほうやらを駆使くしして、複数ふくすう工程こうていを、慎重しんちょうおこなっていく。当然、時間のかかる作業とのことらしい。

 そんな時間のかかる洗濯という行為こういを、シンシアは瞬殺しゅんさつで終わらせた。

 本当に洗濯は終わったのだろうか? とうたがいたくもなる速度だ。


「ど、どれ……」


 実際に、サラさんはねんのためか、シンシアの洗濯した衣類を手に取って確認する。

 そして――


「す、すごい……っ!」


 サラさんは、感激かんげきの表情を浮かべていた。


生地きじはサラサラだし、しわの一つも無いし、花のようなかおりが心地ここちよい……!」


 シンシアは、れたような様子を見せた。


「お、おめにあずかり光栄こうえいです……」


 僕も、自身じしんの高校制服を手に取り、チェックしてみる。

 確かに、サラさんの言った通りだ。

 とても、レベルの高い洗濯がおこなわれたことが分かる。

 しかも、それをほんの一瞬いっしゅんで終了させていた。

 魔法の使い方が、頭一あたまひとけて上手うまいとしか、考えられない成果せいかだ。

 異世界人いせかいじんである僕にも、それくらいは想像できる、彼女の実力だった。


 サラさんは、おだやかな顔で言う。


「シンシアちゃんは、天才てんさいだね」

「て、天才……ですか?」

「そう。魔法をあつかう才能にめぐまれていることが、伝わるよ」

「あ、ありがとうございます」

「おれいを言うのは、こっちのほう。ありがとね、シンシアちゃん」


 僕も、お礼を言った。


「ありがとう、シンシア」


 シンシアは、若干じゃっかんカタコトな言葉で、


「ど、どういたしまして……!」


 と言葉をはっした。

 まるで、お礼を言われれていない人間のように。

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