第24話 宿泊施設

 僕は、うれしきのおさまったシンシアに質問をした。


「シンシアは、今日の寝床ねどこは考えているのか?」

「一応、おかねは持っているから、宿やどまろうと思っている……」

「そうか。ちなみに、どのあたりの宿に泊まる予定だ?」

「それは、ナオキくんのんでいる場所の近くに宿屋やどやがあれば、そこが一番良いかな……」

「じゃあ、とりあえず歩くか。れつつあるし」

「そ、そうだね」


 僕とシンシアは、横に並んで歩き始めた。


「な、ナオキくんは……」

「うん?」

「どこに住んでいるの?」


 どこ――か。


住所じゅうしょは、分からないな」

「じゅ、住所までは教えないでいいよ! 地域名ちいきめいさえ言ってもらえれば……」

「それも、分からない」

「え――えっ?」


 おどろいた様子を見せるシンシア。

 僕は――そういえば話していなかったな、と思って、口を開けた。


じつは僕、異世界人いせかいじんなんだ」

「い、異世界人?」

「ああ、そうだ。だからまだ、自分の住んでいる地域名さえ把握はあくしていない。ここからは、そう遠くない場所としか」


 彼女は、パチパチとまばたきをしてから、言った。


「考えてみれば、ソネナオキって名前は、異世界人らしいめずらしい名前だね……」

「この世界からしたら、そうだろうな」

「じゃあナオキくんは、強いということ? 異世界人には、何かしらの才能さいのう付与ふよされるパターンが多いから……」

「まあ、そうだな。自分で言うのもなんだが、結構けっこう強いとは思う」

「それなら、クエストでもきっとたよりになるね」

期待きたいこたえれるよう、頑張がんばらないとな」


 僕は、水色髪みずいろがみの少女がにぎっている木製もくせいつえを見つめながら、続けて言葉を出した。


「シンシアは、魔法使まほうつかいか何かなのか?」

「そ、そうだよ。私は、魔法が得意で、それ以外が不得意な……魔法使い」

「……得意だとむねれることがあるのは、すごいことだな。とても、いことだと思う」

「あ、ありがとう……!」


 …………。


「魔法は、やはり異世界人が使用するぶんには、難易度なんいどが高い技術ぎじゅつになるのか?」

「う、うん、そうだね。よっぽどの才能がないかぎりは、短期間たんきかん習得しゅうとくできない技術になるよ」

「なるほど。であるならば、僕とシンシアはベストなわせかもしれないな」

「べ、ベストな組み合わせ……?」

「ああ。攻撃こうげきができる僕と、魔法まほうが使えるシンシア。おたがいのりない部分がおぎなえる、完璧かんぺきなペアだと思うが……ちがうだろうか?」


 彼女は、首をぶんぶんと横にった。


「ち、違くない。きっと、いタッグになれるよ……!」


 そう言って、シンシアはみをかべるのだった。


 そして、僕と彼女はギルドまで歩く。

 目的地に到着とうちゃくすると、受付うけつけにいるサラさんが視界しかいに入った。

 書類にふでを走らせながら、「昨日の仕事が完遂かんすいしたという夢は、全部現実にならないでしょうか?」とつぶやく社畜受付嬢しゃちくうけつけじょうに、僕は話しかける。


「サラさん」

「あ。ナオキさん、おかえりなさい」


 そう言って、やわらかく微笑ほほえむサラさん。

 僕は、そんな薄桃色髪うすももいろがみの彼女に聞いた。


仕事中しごとちゅうで申し訳ないのですが、少しお時間をいただいても、よろしいですか?」

「ええ、かまいませんよ」

「実は、僕のうしろにいる、この子の宿を探しておりまして……この近くに宿泊施設しゅくはくしせつは、あるのでしょうか?」

「宿なら、普通にありますが……彼女は?」


 シンシアと目を合わせるサラさん。

 瞬間――サッ! と。

 忍者にんじゃのごとく、すごいいきおいで、シンシアが僕の背中せなかにくっついてきた。

 僕は、くっつき少女に声をかける。


「急に、どうしたんだ?」

「こ、コミュしょうは、日常にひそんでいる恐怖きょうふと、日々ひびたたかっているんだよ……!」

「日常に潜んでいる恐怖?」

「――人間全般にんげんぜんぱん


 それでよく僕に、友達になろうとか、話しかけられたものだな。

 そんなツッコミを内心ないしんでしつつも、僕は彼女に話した。


「あの人は、優しい人だ。だから、おびえる必要は無い。それは、僕が保証ほしょうする」

「そ、それなら。ナオキくんを信じるよ」


 シンシアは、ゆっくりと僕の背中からはなれた。

 そして、サラさんとう。


「わ、私は、し、シンシアと、も、ももうします」


 サラさんは、やさな笑みを見せた。


「私は、サラともうします」

「さ、サラさん……!」

「はい、何でしょう?」

「私……今、とまる場所を探していまして……そ、その、オススメの場所とか、ございますでしょうかっ!」

「ありますよ」

「ほ、本当ですか……!」

「ええ」


 サラさんはやはり、とてもたよれる存在だな、と僕は思った。


「そ、それは……どちらですか?」

「――私の家です」



「…………えっ?」



 今、サラさんは何と言っただろうか?


 オススメの宿泊場所はどこですか? と聞かれ、その答えがまさかの『私の家です』だった。

 冗談じょうだんと受け取ったのか、シンシアは口を動かす。


「わ、私は、そのノリは分かりませんよ……! り、リアじゅうの常識すら持ち合わせていない私は、空気を読めない系女子です! す、すみませんっ!」

「いえいえ、違いますよ。私は、リア充ではありませんし、この提案ていあん真剣しんけんそのものの言葉です」

「し、真剣? わ、分からない……! どこからどこまでがジョークで、どこからどこまでが本気なのか、私には解析かいせきできないよ。ようキャラは、未知みち生物せいぶつ……」


 故障こしょうした様子のシンシア。

 僕は、わりにサラさんに聞いた。


「どのような意図いとがあって、シンシアを泊まらせようと考えたのですか?」

「だって、ほうっておけないじゃないですか」

「放っておけない……」


 その気持ちは、分かるが。


「あんな可愛かわい。宿に泊まらせない方が、きっと良いですよ。ただ、そう考えただけです」

「そうですか」


 まあ、僕がいちいち首をつっこめる話でも無いか。僕も、居候いそうろうさせてもらっている立場だし。


「コミュニケーション技術、魔法よりも難しい……!」


 独自どくじのワールドに入り込んでいる彼女。

 そんな少女を追加して、今夜からワンルーム三人の生活が始まるのだった。


 ――そういえば、シンシアはまだ知らないんだよな。僕も、サラさんの家に泊まらせてもらっている立場であることを。

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