第23話 シンシア

 僕は、少女に聞く。


「あなたの、お名前なまえは?」

「し、シンシアと言います」


 シンシア……。

 僕は、自分の名前を名乗なのかえした。


「僕は、曽根そね直樹なおきです」

「ソネナオキさん……素敵すてきなお名前ですね」

「シンシアさんも、素敵な名前だと思います」

「それは、まあ……おかあさんがつけてくれた名前ですので」


 そう言ったシンシアの顔は、少し赤くなっていた。

 僕は、次の質問をする。


「シンシアさんは……おいくつくらいになるんですか?」

今月こんげつで、16になりました」

「16……つまり、僕とおなどしということですね」

「そ、そうなんですか!? じゃあ……」

「――敬語けいごは、しで良いんじゃないか?」

「そ、そうだね」


 僕とシンシアは、タメなかとなる。


「ちなみに、なんだが」

「な、何かな?」

「なぜ、友達になってほしいという言葉の遠回とおまわしの表現として、死んでくださいやんでくださいというセリフが選別せんべつされたんだ?」

「そ、それは……」


 シンシアは、説明を始める。


「お母さんから、教えてもらって」

「教えてもらってとは、何を?」

かたちだけの偽物にせもの友達ともだちを作らず、本物ほんものの友達を作る方法があると……」

「うん」

める時もすこやかなる時も、あいせる覚悟かくごがあるかどうかを聞くこと……それが、本物の友達を見つけ出せる最強の方法だと」

「……へぇ」

「死ぬ時まで一緒にいてくれることを約束やくそくできる人は、もう本物の友達だとお母さんは言っていたから……だから一緒に死んでくださいと、遠回とおまわしに発言はつげんした感じで……」

「……なるほど」


 つまりすべては、この子の母親が主犯格しゅはんかくということだな。

 というか、める時もすこやかなる時も――という言葉は、結婚けっこんちかいの時にわされる言葉ことばなのでは?

 さすがに、そんなデリケートな疑問ぎもんを、彼女に直接ちょくせつツッコむようなことはしないが。


「ちなみに、だけどね……」

「ああ」

じつは私、とても重要な秘密があって」

「重要な秘密?」

「そう」

「それは?」

「そ、それは――」


 シンシアは、言った。


「――私、今日、家出いえでしてきたの……っ!」


「…………」


 僕は、言葉を返した。


「そうか」

「あれ? 思ったよりも軽蔑けいべつされていない」

軽蔑けいべつはしないが……悪いことをしている自覚じかくはあるわけか」

「それは、もちろん。死刑しけいも覚悟しているからね……!」

「死刑になるほどの悪事あくじでは、ないような気がするが」


 しかし、と思った。

 なぜ、こんなにもビビりっぽい性格の少女が、家出を決行けっこうしたのだろう?

 まよい、とかだろうか?


 シンシアは、口を動かした。


「ただ、家出いえでをしたは良いものの、そのさきにやることを考えていなかったから、何をやれば良いんだろう? ってなって……だから今、とりあえずやりたい事をやっている形で」

「友達を作ることも、その一つだと?」

「そ、そう!」


 なるほどな。


「でも、その友達候補ともだちこうほとして、なぜ僕をえらんだんだ?」

「それは……」

「うん」

「話しかけやすいオーラを、まとっていたから」

「それは、大事なところだな」

「そう。そこは、とても大事なところだよ」


 時間も経過けいかしていき、橙色だいだいいろの空に暗さがじっていく。

 そんな空を一度見てから、僕は口を開けた。


「家出は、いつまでを予定しているんだ?」

「それは、未定みてい……」

「まあ、家出はそういうものだよな」

「うん。ナオキ……くんは、めないの?」

「止めるって、何を?」

「私の、家出を」

「それは、止めないな」

「どうして……?」

「どうして……」


 僕は、言葉をはっした。


「家出を止めて、かりにシンシアが、それのせいでいやな気持ちになってしまったら、僕は何の責任せきにんも取れない。だから、家出を止める権利けんりが、そもそも僕には無いんだ」

「な、なるほど……!」


 と、目をかがやかせながら言うシンシアだが、僕はそんな立派りっぱな言葉をはっしたおぼえは無かった。

 むしろ、どちらかといえばチキンな男の発言だったようにも思える。

 まあ、何でもいいが。


「じゃあ私は、問題なく家出が続行ぞっこうできるわけだね……!」

「……良かったな」


 シンシアは、みをかべて返事をした。


「うん……!」


 その笑顔を見て、シンプルに可愛かわいいな、なんて思った。


「シンシアの、次にやりたいことは何なんだ?」


 少女は、質問に答えた。


じつは今、しいものがあって」

「欲しい物?」

「うん。とても、素敵すてき素材そざいなんだけど……それをれるためには、とあるクエストに挑戦ちょうせんする必要があって」

「クエスト……」


 それは、モンスター討伐とうばつとか、そういうたぐいのやつだろうか?

 そして僕は、初めてギルドに言った時の、あのクエスト受付うけつけ長蛇ちょうだれつを思い出した。


 ――クエスト、か。


「そ、それで、なんだけど……」

「何だ?」

「よければ、私と一緒に……」

「――クエストの挑戦か?」

「そ、そう! ナオキくんも一緒だと、心強こころづよいから。その……メンタルてきに」

「メンタル的?」

対人恐怖症たいじんきょうふしょう対策たいさくに、万全ばんぜん……!」

「…………」


 何だか、僕がよく分からない位置いちになっているのだった。


 でもまあ……クエストには興味きょうみがあるな。


「分かった。じゃあ、僕とシンシアの二人で協力して、クエストの達成を目指めざすか」

「い、良いの?」

「ああ。特に用事があるわけでも無いし、友達のさそいをことわる理由もないからな」

「あ……」

「あ……?」

「ありがどうっ!!!!」

「――!?」


 シンシアの、うれしきが再来さいらいした。

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